私、僕、オレ



私には誰かが死んで悲しいという感情がないらしい。

泣いていた。
私の姉も親友も叔父さんも叔母さんも従兄弟も再従兄弟もお祖父さんもお祖母さんも親戚、血の繋がりがある人たちも。

長い長い葬式が終わり、私は冷たい風が吹く外へ出た。季節は冬だからとても寒い。でも私が暮らすこの島は暖かい地域だから世界的に見ればまだまだ寒くないのかもしれないけれど、私にとっては寒い。



「……」



頬を触ってみた。
濡れたあとはない。



「……お父さんとお母さんが死んだ。居なくなった。……全然、悲しくない……」



気持ちが悪い夜空を見上げた。
私は白い息も出ないため息を吐く。
悲しいっていう感情は知ってるのに。どうして今、それが沸き上がってこないの?



「こんなところで何をしてるの?」

「あ、ラリス!なんでもないよ」

「……大丈夫?」

「……。平気だよ」



親友のラリスは私が強がってると思っているんだろう。でも本当に平気なんだよ。悲しくないもん。お父さんとお母さんが死んだって。
お姉ちゃんは泣いていて、私は何もなくて。

わたし、おかしいのかな。
変なのかな。
一族でも異質な能力者なのに。
変。
変?変。
どうしたらみんなと同じ「悲しみ」がやって来るのか。

ああ

ああ

アア

アア

嗚呼

嗚呼


わかった!


たりたいんだ!

お父さんとお母さんだけだから。2人だけだから!もっと死んじゃえば私にもきっと!



「ねえ、ラリスっ」

「うわっ!ど、どうしたのよ……!」

「ラリス、お姉ちゃんが好き?私は?」

「ふ、2人とも好きよ。……どうしたのよ、急に」

「えへへ。なんでもないよー」



ラリスに詰め寄っていた私は離れるといつも浮かべている笑顔を彼女に向けた。



それから数日して、「変」に耐えられなくなった僕は島を燃やした。たくさんの人を黒い刀で殺した。

オレにはその島――ブルネー島で起こした事件の詳しいところがまだ思い出せない。
あの親友も親戚も知り合いも斬った記憶はあるのだ。かえり血をたくさん浴びて、それでも何も思わなくて。真っ赤に燃え盛る島。深夜なのに夕焼けのように赤い空。近付いてくる知らない人。

僕にとって一人称の変化は僕自身に起きた変化を表している。そのことに「オレ」は気付けるかな?それがわかればきっと過去に取得した記憶が――。