真っ赤なそれ、真っ黒なそら
一言で表現するなら、それは赤。
「……血……?」
ただ赤いのではない。それは液体で、辺りにある草や木に付着している。周りに漂うのは強い鉄のにおい。折れた木々。自然では起こり得ないへこみ。きず。 これらが、ここで何があったのか物語っている気がした。――たとえ物語っていなくとも、乱れたここがオレに、オレたちに悟らせる。ここで何があったのか、を。
「『黄金の血』に混乱はなかった」
さきほど合流したシングとミルミ、ラカールとチトセのうちミルミの異能でだいぶ回復したサクラが呟く。その隣にいるリカは黙って彼を見上げる。
「よっぽど『黄金の血』が冷酷でなければ仲間の犠牲に混乱はしないだろう。知らせが早く届く幹部のようなあの美紀にもとくに迷った変化はなかった」
自分の怪我を悪化させてまで止めに入るような奴が冷酷とは思えない。 とサクラは赤から目を離さず続ける。
「『黄金の血』サイドに犠牲はないと考えられる」
普段語る時と何らかわりないペースで紡ぐ言葉の意味を理解することに、遅れた。 『黄金の血』に犠牲はない。 『黄金の血』は欠けていない。 つまり、それは……。
ついこの場にいる人を見渡した。
オレ、シング、ミルミ、ラカール、チトセ、サクラ、リカ。 足りないのはリャク様とミント。リャク様が血をこんなに流すほど大ケガをするなんて到底思えない。……ということは、この血を、血だまりができてしまうほど流したのは――ミント。
「ミントが、こんなに怪我をしたっていうの!?」
声を荒くしたラカールがサクラへ言う。サクラが結論を言わなくても、気付いてしまった。 シングは血だまりを凝視したまま。ミルミはただ立っていただけで変化は見えないように見えるが、オレにはわからない変化があったかもしれない。ラカールは明らかに混乱している。チトセは慌ててラカールを宥める。サクラはラカールから目を反らした。リカはただ目を瞑って耐える。 では、オレは?
なにも変わらない。なんとも思わない。
胸の奥は相変わらず落ち着いる。まばたきにも呼吸にも変化はない。目は血や乱れた木に向いていてもそれにたいしてなにも感情は浮かばない。 ただ夜の冷たい風が静かに吹き抜けるだけ。月も無数に輝く星も変わらない。煌めくそれらとは違い、闇を延々と夜空に溢す漆黒も変わらない。そよ風によって触れ合う木の葉が奏でる音も変わらない。
「こんなに血を流して、助かるわけがない。――ミントは死んだ」
自分で呟いた。現実を事実を真実を言葉にしてみた。 それでも待っている変化は訪れない。
世界がオレを置いて時をすすめているような感覚がした。
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