Exposure of a trick


リャクは隠れることもなく、崩壊を予告された建物の中を歩いていた。『黄金の血』はもういない。彼らはついさきほど、この時代から、世界からいなくなったのだ。帰ったのだ。実際のところ、時を超える異能は珍しい。その上、力には制限がある。リャクたちからみて大昔の、一度崩壊する前の時代の人間がここに出現するなど、ありえない。あってはならない。しかしそれが現実に起きた。実現するには莫大なエネルギーが必要だ。そんな莫大なエネルギーを所持しているのはこの長い廊下を歩く天属性を開発したリャクを含めても五本の指に収まってしまう。
『黄金の血』のメンバーがこの時代へ来たのは事故だった。その原因はすでにリャクが解明している。が、しかし問題はそこではない。彼らがどうやって帰るのか、だ。彼らが一定期間以上にこの時代に留まってしまえば、世界の保たれていたバランスがおかしくなる。
この世界はバランスが崩れやすい危うく脆い。
彼らには早々に帰ってもらう必要があった。それとも帰る術がなければ消えて――死んでもらう必要があった。
今夜、リャクは彼らを一掃し、殺すつもりでいたが、帰るのならば、と加担したところがある。
『黄金の血』のボスはこの建物を破壊するための魔力を保守しつつ帰るための扉を展開するという困難な技に出ていた。建物を消すのは自分たちがいた痕跡を消すため。そして帰るための扉は最難関といってもいいほど難しいにも程がある術だった。
いくらこの時代の異能者より『黄金の血』たちがいた時代の異能者のほうが力が多く備わっていても、その術は一人では展開できない。よって術者として代々才能を発揮してきた中神家の次女と長男である美紀と光也、そして自らを中心に術を展開していた。しかし問題があった。美紀は深く傷を負って負傷していたのだ。
それを知っていたのはリャク。
自分の補佐であり、自分の中で重要な位置にたつナナリーが先日、美紀と一戦交えた。封術師としてリャクの訓練のもと、努力を重ねて手にいれた巨大な力は、リャクの所属する組織として誇り高い。そんな彼女が負傷した。美紀と戦って。美紀もただでは済まされず、彼女もまた大怪我をしていた。これでは術が展開されない。失敗してしまう。二度目はない。だからリャクはソラと建物から出る時、見えないところで、その場にいないのに、術の展開に手をかした。ついでというか、おまけに彼らの疲労も怪我もすべて治しておいていた。結果、彼らは帰った。



「あ、いたいた。待ってたよー」

「……貴様か。本体ではないな。偽物か」

「でも偽物の中で一番本体に近いよ」



歩いていたリャクがとあるドアを通りすぎた瞬間そのドアが開き、中から金髪碧眼の、リャクよりすこし背が高い少年が姿を現した。その整った顔に浮かべる嫌な笑みは、リャクがよく知る、彼にそっくりだった。その少年は、ソラがさきほど目撃した人影であり、ツバサが自殺したときに現れた不気味な少年である。

そしてこの少年は、ツバサと同じく、どこかに潜む本体の偽物――。

ツバサと同じ存在。

ツバサと同じ身代り。

ツバサと同じ。

ただ違うのは、この偽物がツバサよりも危険な存在であることだった。