gold blood



「お、おい、大丈夫か!?」



ゆうきが、つい叫んでしまったのも無理はなかった。この部屋にいなかった美紀とカイトがやってきたのだ。その状態はあまり良いものとは言えず、カイトのほうはともかく美紀の体は血に染まっていた。呼吸は荒く、静か。カイトに横抱きにされている美紀はぐったりと力ない。意識はあるようで、カイトに陣の側まで連れていけと言っていた。



「美紀姉!?」

「だ、だめだよ!血だらけのまま術をやったら危ないよ!!」



美紀の実の弟である光也、そして明は彼女を心配していた。それはボスも例外ではない。



「やれるの?」

「できます。……それに、チャンスは今しかありません」



カイトにおろしてもらい、立ち上がることはできないが美紀は床に座り込んだまま術の完成に手をつけた。クレーは黙ったまま一連を眺め、ゆうりは冷や汗を流した。体が弱ったままの状態で難易度がとても高い術に手を出すのは自殺行為。死んでしまう可能性がある。運が良くて生きていられても、美紀はいったいどうなるのか。



「美紀姉……」

「自分のことに集中しなさい、光也。……私は大丈夫よ」

「でも、それだと」

「喋る余裕はないはずよ。
もうラストまで来ているみたいね」



美紀がボスに頷いて、術を展開。

明は雪奈の手を強く握って、彼らから目を離さなかった。ゆうきはゆうりの隣で腕をくんで眉間にシワをつくる。

美紀は制御をしないで全力でその術に力を注いだ。倒れそうになると後ろにいたカイトが身体を支えた。



「……っ!」

「いけ、る!」

「明ちゃんたち、陣の中に入って!」

「急ぎなさい」



美紀の目が開き、光也の頬に汗が流れ落ちた。瑞希は明たちの方を振り向くと、余裕がない切羽詰まったように、早口で叫んだ。目を閉じ、優雅に座っているボスも透き通る声でつぶやいた。



「おい、ボーッとすんなよ明!!」

「行くぞ!!」

「わ、わかってるよー!」

「はいはい」



明の背中を雪奈が軽く押し、先を早歩きで進むゆうりとゆうき。

クレーも術の補助が必要ないとわかると術展開の枠から離脱し、ゆうきにひっぱられるがまま陣の中へ。瑞希と光也へボスも中に入れと言い、二人も入った。中に入っても、落ち着けない光也は中から術の展開を手伝う。
服は汗でびっしょりと雨にうたれたように濡らした光也は自分の周りに文字を描く。光也から何歩か離れたところに明たちが立った。

そして、前置きもなく、唐突に、前奏も予告も予感も、なにもなく、突然術の発動を行っているボス、美紀、光也の身が軽くなった。それどころか、その場にいる全員の疲労が回復し、美紀にいたっては全身の激痛が引いていく。



「え、えっと、なに、これ?」



苦笑いを浮かべ、明は首を傾げた。美紀の後ろにいるカイトも眉間にシワを寄せて疑問を抱いている様子を表していた。
どくん、と胸が高まる。
陣の光はいっそう輝く。
浮かび上がるいくつもの光の粒子に確信し、優雅に座っていた彼女は立ち上がった。



「……でき、たわ……。でも突然どうして」

「ボス!陣の中へ!」



驚愕していたボスへ声をかけ、光が増していく一方の陣へ美紀が入る。あとに続いてカイトも。歩き出したボスが陣に入りきったとき、部屋は真っ白になった。



建物の外へ歩く高位魔術師の少年がそっと、静かに微笑んだのは誰も知らない。