黄金の血



「もう仕上げに入ってるらしい。あとはゆうきたちが早くこっちに来て手伝ってくれればもう終わり」

「そしたら帰れるんだよねっ?」

「そうだな」



その部屋の隅で明は隣にいるゆうりと話をしていた。
部屋の中央には巨大な魔術による陣が描かれている。六角形の中に円があり、四角形や三角形がある。陣の中心には記号が刻まれていてそれを囲うように幾何学的文字が蠢く。
その陣の周りには、陣を描いた張本人であるボスがいる。それに続いて瑞希とさきほどゆうりと交代した光也もいる。
一人では発動できない術だから複数で行っていた。

座っているボスは眉間にしわ刻み、瑞希は呼吸が乱れていた。加わったばかりの光也も顔に冷や汗を流している。
正直なところ、三人だけでは辛かった。せめてあと一人。美紀に加わって欲しいところだが、彼女は侵入者の討伐に向かってしまっている。カイトに全員の召集を頼んでいるが、まだ来ない。



「私にも出来ることないかな」

「止めとけ。力の方は俺が流しといたし。それに術者の異能もない能力者が介入したところでバランスが崩れるだけだ」

「でもなにもしないで見てるのは落ち着かないし」

「落ち着け」



幼馴染みの頭の上にゆうりは手を置いて撫でた。その瞬間、明の目じりが赤く染まり、鼻につんとした刺激があった。

明は明なりにこの世界について考えていた。この世界に自分達は何かの事故で来てしまった。この世界は自分が存在しているだけでバランスが揺れて危なっかしくなるほど脆い世界だった。多少の衝撃でバランスは崩れたりはしないが、それでもこの世界は危なっかしいものだった。
それに世界のバランスを脅かしているのは自分たちだけではないことも、そのひとつの小さな原因も直感ではあるが明は気付いていた。与える衝撃が大きくなるまえにこの世界を去らなければ。
この世界まで生き延びる大切な親友のためにも。
一分一秒を争うほど切羽詰まっているわけではないが、明の表情には焦りが見えている。



「おいボスさんよぉ、術は出来たか!?」

「遅れました」

「術は出来そう?」



突然の声に明ははっとなってその声がする方をみた。そこにいるのはゆうき、クレー、雪奈。
ゆうきと雪奈の問いにゆうりが答える。その間にスタスタとクレーは陣の近くにボスたちと同じく加わると詠唱を手伝った。術者ではないにしろ、クレーの異能は役に立つ。

あとは、美紀がいれば完成出来そうなものだった。