謎の少年



状況がうまく、のみこめない。

目の前にいた青年が消えた。
死体もなにも遺さず。
……おかしい。そう、おかしい。だって、ツバサは不死だ。どうして死ぬ?どうして消える?矛盾している。



「考えるな」



リャク様が、明たちの消えた壁を見ながらオレに放つ。その表情はなにもない。笑うことも、泣くこともない。
――泣く?
あれ、オレもそうだ。泣くどころか、なにも悲しくない。なんとも思わない。ただ不死が死んだという矛盾が気になっているだけで……。



「オリジナル」

「はい」

「自問自答するのは貴様の自由だが、奴が消えたことに関する思惑は深く考えるな」

「了解です」



オレが何を考えたところでなにも変わらない。司令塔は上だし、これは任務に関係ない。リャク様がツバサが消えたことについてなにか知っていたとしてもオレに話すわけがないし。知っていたとしても、というか知っているんだろう。ツバサが最期に言った「君とは一度、直接話をしたほうが良さそうだ」という台詞も気になる。



「まだいたの?」



幼い少年の声。
リャク様かと一瞬思ったが、視界にいるリャク様は驚いた表情でオレに振り返っていた。リャク様の視線の先にいるのはオレの、斜め下にいる少年――。



「っ!?」

「貴様――……」

「みんな、もう帰るから君たちも帰れば?ボスさんはここをついでに破壊して帰るみたいだから長居するとあぶないよ?」



少年の顔は、服についているフードのせいで見えない。
というか、いつの間にオレの隣に居たんだ?あのリャク様でさえ気付いていないみたいだった。それにこいつは異能者?ほとんどの異能者は力量が纏う雰囲気で分かるというのに、この少年は力量がまったくみえない。むしろここに存在していること事態がおかしい気がする。この少年は、ひとことでいうなら関わってはいけない。そんな気が、ぐさりと突き刺さる。
やばい。とにかく、やばい……ッ!!



「俺君たちの仲間にもそう言ってきたからさー」

「なん……」

「行くぞ、オリジナル」

「リャク様!?」

「ここにもう用はない。それに……」



リャク様が鋭い殺気を謎の少年に送る。押し黙らせるその殺気は謎の少年に向けられたものなのだが、つい身体が強張ってしまう。
踵を返し、リャク様はついてこいと言うように部屋から立ち去ってしまった。オレは謎の少年に目を向けるが、少年は「ばいばい」と手を振るだけだった。
オレはリャク様を追い掛け、部屋を出る。

もやもやとした疑問は、棄てた。