不死 自殺



拳銃を、とられた。
ツバサに背中を叩かれた瞬間に奪われた。いまツバサの左手にはオレの黒く光る拳銃が握られている。
身体を満足に動かすことができない圧倒的不利のツバサは近距離よりも遠距離の戦闘のほうが勝算がある。リャク様は組んでいた腕を解いて「案外早かったな」と言った。



「前もってリャクにいっておくけど、明ねーちゃんたちが展開している魔術は過去へ帰るためのものだから変に手を加えるなよ」

「そうだろうな。攻撃的な魔力の流れは感じられない。帰るのならオレは何もしない。その方が好都合だしな」



リャク様はそう言いながら左手を宙に翳した。空間がそれに鼓動して歪むと、その空間から一本の剣が現れた。

まさかとは思うが、リャク様は遠距離に戦闘スタイルを変更したツバサに対して近距離に戦闘スタイルをかえるつもりか?リャク様は遠距離型だと勝手に思っていたせいか、近距離戦もできるという事実に驚く。あの小さな身体では遠距離戦が妥当だろうに。



「聞こえているだろう?不死。終止符をうちたいのなら逃げるな!!存在しているこの世界をしっかり目に焼き付けろ!!」



バチ、とリャク様の纏う空気が火花を散らした。わずかに漏れたリャク様の強大な魔力が空気に浸透できなかったせいだろうか。
しぜんと引き出される知識をオレはなんとも思わないまま部屋の壁にずるずると背を預けた。



「君とは一度、直接話をしたほうが良さそうだ」



そう呟いたツバサから戦意は無くなっていた。
唇から紡がれた言葉は果たして目の前のツバサが言った台詞なのか。
違和感を感じたその台詞を吐いたツバサは、目の前の不死は、銃口を退治しているリャク様ではなく、自分の頭に、向け、た。

――不死が、なんの、ために。



「命に結末を」



唇を歪ませて笑みを浮かべたツバサはなんの躊躇いもなく引き金を引いた。
まるで呼吸をするように
まるで瞬きをするように
自然的な動き、違和感のない慣れた動きだった。

血が何処につくよりも前に、ツバサの肉体は消えた。

肉体は跡形もなく砂のような、灰のようななにかになって、そのなにかも肉眼では確認ができないほどに消える。

ツバサの肉体は消えた。



「は …… ?」



まったく、状況においつけないのだけれど……。

ツバサが消えた?

きえた

つまり、しんだ?