逃亡者へ追跡者




ただの話し合いなんかしないだろうなあ、とは思っていたが、まさか本当に話し合いだけではなかったとは思ってもいなかった。
鎖の結界の中から、オレと明と光也はただツバサとリャク様がどうなるのか見守っていた。明にいたってはかなりそわそわしていて落ち着きがない。



「……ツバサ……」



泣き出しそうな小さな声は、悔しそうに。拳を握って、まるで自身の無力さを呪うように目をうるわせていた。ツバサから目をそらしてはいけないと、そらさない。
そんな明の様子が、儚く思えて仕方がなかった。




「貴様はまた逃げるのか?」

「なんのこと?」

「いつも、いつもそうだろ。貴様は"シナリオ"に背を向ける」

「どうだか」



ツバサが肩をすくめた瞬間、なんの予告もなくリャク様が持っていた武器――ガンブレードを発砲した。杖を所持していないといけないほど足を痛めているはずなのにツバサはその銃撃をひらりと避けてしまう。なぜ避けられるのだろう。あれは大きなハンデのはずだ。不死だから、なんて理由にならないだろう。



「酷いな、何も言わないで撃つなん――」



ツバサが言っている最中であるにもかかわらずリャク様は撃ち、さらに最下級魔術で小さな火の玉を飛ばした。
明が勢いに任せて鎖を握った。



「ツバサ!?」

「明、落ち着け!」

「っ、だってツバサが……!!」



ツバサは不死だから死ぬことはないのに。そこまで心配する必要はないのに。どして明は目に涙を溜めてまでして彼を心配するのだろうか。光也は明の背中をさすったが、効果はみられない。



「なんだ、これで終わりか?」



煙が上がるそこにツバサがいるはず。リャク様は目を閉じて言う。腕を組んで余裕を見せていた。



「冗談」



そんなツバサの声がしたと思ったらカラカラカラとガンブレードが床を滑った。リャク様の武器だ。すぐに持ち主を視界にとらえた。リャク様の目の前にはツバサが痛めているであろう右足が振られていて、リャク様は防御魔術を展開していた。

ボタリとツバサから血が滴る。……ガンブレードが落ちた衝撃で引き金がひかれたのだろう。しかも運良くその銃口の先はツバサ。ツバサは腕を撃ち抜かれたがすぐに回復させて、瞬時に後ろへ後退した。

明の息を飲む音がした。

そして視界の端に焔の切れ端が見えた。