Intrusion


光也に体を支えてもらいながら降り立ったのはひとつの扉の前。
発作は少し治まるものの痛みは消えず。
この扉の奥にツバサがいるとは、想像できない……わけではない。なぜなら話し声が聞こえる。はっきりしていないから何を言っているのかわからないが、確実にツバサのもの。それにもうひとつ。あれはリャク様だろうか?ツバサとリャク様がいるってことは、けっこう修羅場なんじゃないか?え、そんなところに入るの?オレたち。巻き添えになったりしないかが心配だ。あの二人だし。出会い頭いきなり喧嘩するような人たちがひとつの部屋で平和的な会話をしているようには思えない。というか無理だろ。



「ツバサー!!」

「は?」

「ちょ、明!」



そんな風に思っていたのもつかの間、明がおもいっきりドアをあけて廊下と部屋を繋いだ。中の様子がまるわかりだ。

なかでは武器を持ったリャク様が一度こちらに目を向け、それからすぐにツバサを睨むことに戻った。
一方のツバサは「どうしたの?」とドアを開いた勢いでアタックしてきた明を受け止める。



「ソラが苦しそうなの、どうにかならない!?」

「ソラ?……ってことは、」

「"呪い"か」

「ちょっとチビ、台詞とらないでくれるかな」

「独断専行の貴様が言えた立場か。裏切者」

「へえ、俺は裏切者ってことになってるわけ?」

「計画から背いた分際で口答えか。ああ、裏切者ではなく卑怯者か?」

「狂研究者が俺に言えた台詞?」



とても居づらい。

オレは光也に支えられながら部屋にある一人用のソファーに座る。明がそれに気がつき、光也と一緒にオレを座らせてくれた。
なんとか座れた、と思ったら視界の端で何かがフッと動く。あれは、リャク様の手。リャク様がこちらに腕を振ったのだ。
直後、オレたち三人の目の前に光を纏ったような細い糸が現れた。その細い糸はいくつか束になってオレたちの周囲を天井と床を繋いで囲んだ。束がギュッと固まると、光が自然と落下する。光の束は鎖となった。天井と床を真っ直ぐ繋いだ鎖がオレたちを囲い、さながら鉄格子の用だった。



「……お、おい、これ下級魔術だよな……?詠唱を省いたのかよ。しかも下級魔術のはずなのに、これは……」

「えっ、えっ?」

「結界。聖属性の拘束だよ」



光也が冷や汗を流し、明が混乱しているとツバサが安心させようとリャク様の魔術がどんなものなのか言う。



「……?」



手の甲に見たこともない小さく白い陣が浮かび上がった。そして癒える激痛。
すぐにそれが誰の仕業なのか分かった。こんなことをできるのはリャク様しかいない。ツバサでなくてもリャク様も"呪い"を鎮静できるということなのだろうか。どちらにせよ助かった。リャク様の視界にオレは入っている。頭を下げた。



「オリジナルはもう貴様の管理下ではない」

「はっ、見せ付けるね」

「用も済んだ。話の続きをするぞ、不死」