Changing is frightened.




あの少女は誰なのだろうか。

あの声の正体はなんなのだろうか。


思い出せそうで思い出せない。つい最近取り戻した記憶は穴だらけで曖昧。あまりはっきりしない記憶だからか、少女が誰なのかわからない。

せっかく思い出した記憶は明確ではない。大体はわかっていても、細部までがわからないのだ。思い出したのは過去を客観的にみたものではなく、かなり主観的にみたもの。感情が強すぎて、そればかりしか思い出せていないのだ。



『もっと苦しめばいいのに――……』



そんな言葉をオレに放ったのは、一瞬見えたあの髪が長い少女だろう。
いろんな疑問が飛び交う。
わかるのは、オレを恨んでいるということくらい。オレがいたブルネー島という島を火の海に沈めた張本人がオレらしい。たぶん。だから恨まれて当然。

しかし、なぜ――

いや止めよう。どうせ答えは見付からない。考えるだけ無駄だ。

それに、今はこの発作をどうにかしないと。

先ほどよりは治まってきているが、痛いことには変わりはない。



それにしても、どうしてオレはこんなにも生きていたいのだろう。



ただ、死ぬのが怖いとか、そんなのじゃない。死ぬのは怖くない。自分のこめかみに銃口を押し付けることはできるだろう。引き金を人差し指で触れることも可能だ。
けれど、唯一できないのはその指に力を加えて引き金をひくことだ。
死に対する恐怖はない。
生な対する恐怖はない。
なぜこんなにも生きたがる?

ついこの前まで、後藤さんと雄平とただ、だらだらと学校生活を送っていただけなのに。

いつのまにかこちらに馴れ始めている。

なんだか、死ぬことよりこっちのほうが怖い。

自分のことがわからない真っ暗闇のなか、"呪い"に侵され、いまや殺人だってやろうとしている。自分のすべてを真紅に染めていく感覚は、怖い。人殺しが怖いとか、そういう意味じゃない。それに対して抵抗はないし。言葉にし難いものだけど、強いていうなら、それが気持ち悪い。気持ち悪い。
変わっていく自分は、まるで誰かの手の平で踊っているようで――、違う。変わっていくんじゃない。本来のオレになろうとしているんだ。戻っているんだ。
徐々に。

酷く滑稽だ。



まだ響く、あの子の声。頭の中をループしている。……懐かしい。