幻ヲ夢見テ




視界があまりはっきりしない。
ちゃんと異能は機能しているはずだ。光也の動きが遅く見えているのだから機能されていることはすぐにわかる。しかし、おかしい。だんだん周りがぼやけていって形がはっきりしないのだ。
ガンガンの殴られるように痛くなっていく頭。左腕と左肩はもう痛すぎてなにがなんなのかわからない。



「光也!ストップ!ソラがさっきから変……っ」



明の声が震えている。
光也の動きが落ち着いて、明の言う通り止まったのが確認できた。
オレは力が抜けたように、崩れるようにしてその場に膝をついた。さっきまでのオレなら明と光也を殺そうとしただろうが、今のオレにはそんな余裕は失われていた。
明がオレの両手をそれぞれ握って、どうしようどうしようと呟いている。光也はオレが落とした刀を拾って、どこかへ投げ捨てていた鞘に丁寧にしまった。



「ツ、ツバサのところに連れていこ!ツバサならソラのことわかってると思うし……!」



震えた声。オレの両手から伝ってくる明の暖かい手も震えていた。

どうして明はこんなにも他人に尽くせるんだろうか。偽善者を演じることは明には不可能だろう。短い時間しか話したことはないが、なんとなくそれがわかった。



「ソラ、ツバサの所に行こう?ね?」

「……まだ、オレは」

「お前、そんな辛そうなのにまだ俺と闘う気か!?バカ!?死ぬぞ!」

「うっ……」



死ぬぞ、という言葉につい両手に力を加えてしまって、明は少し唸った。

オレは死にたくない。

死ねない。



「……っ」



オレが言葉につまっている間にも"呪い"はオレを蝕んでいく。
歯をくいしばるオレをどう受け取ったのか、光也は陣を描き出す。反響するようにその陣はオレの足元にも浮かび上がり、輝いた。その陣の上にいるのはオレだけではなく、オレと手を繋ぐ明と術を発動しようとしている光也もそこにいた。



(……見たことある、この陣……。明を斬った時、一瞬みた。……転送系統の召喚術か)



ズキズキとオレに激痛を与えるそこが、ドクンドクンと規則的に波をうった。同時に、オレの心臓が動く音が耳を支配する。
なんだろう。痛みが少しひいていく気がする。
明は繋いでいた手を離してオレに抱きついた。ふわっと明の優しい匂いに包まれる。



『もっと苦しめばいいのに――……』



光也が術を完成させてオレたちがその場から消えてしまう寸前、廊下の奥で髪が長い少女の影が見えた気がした。