使えない駒




ほの、お



「――ッつ!!」



明が必死に抑えている炎は、先程よりも遠くなっていて熱気も薄くなっている。だが、オレに異変が起きた。

ひだりうでがいたい

炎を見て、頭にフラッシュの映像が過った。それは真っ赤な空。夕陽なんかじゃない。その瞬間だった。ズキズキと縛り付けるような痛みは激痛の名にふさわしい。

倒れるように膝をつく。銃も一緒に落ちた。幸い、たまたま安全装置を解除していなかったので発砲することはなかった。
左に握っていた刀ももちろん落ちる。しかし、オレの耳には刀が落ちる音なんてどうでもよかった。



(こんな時に……!)



ギシリと歯を食い縛らせて床を睨んだ。体の支えにもしている左腕の激痛は肩に到達していて、前よりも体を蝕まれていることは確かだ。
でも前よりはあまり痛くない。いや、前回と比較しても痛いことには変わりはない。
段々周りの音が聞こえなくなって、というかどうでもよくなって。

ああ、なんか、寒くなった気がする。



「明、大丈夫か?」

「……うん、平気、だけど……ソラの様子が変だよ?どうしたんだろう」



寒くなったのはどうやら明の炎が消えたせいのようだ。
オレは刀を拾いなんとか立ち上がって、今まで下に向けていた顔を見上げると目の前に明がいた。敵意も殺意もない。明の横で光也がオレの落とした拳銃を拾っていた。光也にはまだ敵意がある。明に何かしたら撃つということか。
汗が頬から首へ流れた。
緊張か、恐怖か、重圧か、それとも別の何かが原因で流れた汗は、この場の空気と同じ温度だった。



「ッ……なに」

「どうしたの!?」

「敵に、心配してたら寝首……とられる、よ」

「ソラは私の敵なの?」

「……オレが何しに来たか、分かってる?」

「左腕が痛いの?」

「……」



ずっと右手で力強くブランと垂れ下がる左腕を握っていたせいだろう。図星だった。左手で力弱く持っている刀は今にも落ちそうで。

でも今のオレには明の心配を素直に受け取る余裕なんてない。オレの標的が明と光也であることは変わっていない。
明が優しいことは知っている。オレを心底心配してくれていることだって、わかる。



「あっ」



けれど、これは任務だから、私情は必要ない。



「くそ!」



オレは明の肩を押して突き放し、続けて光也からの銃撃を回避する。左腕なんか構っている場合ではない。さっきより少しは痛みはなくなったし、たえられないわけではない。
激痛にはかわりない。左腕は戦闘に役に立たないだろう。自分で再開しておきながら不利な状況を自嘲した。



(負けるだろうな……)