敵ではない敵



先に動いたのはシングだ。いつの間にか握られていたクナイが真っ直ぐゆうきへ飛んでいく。ゆうきは槍の柄でそれを弾かせ、氷の上を滑ってシングへ急接近。シングは血が落ちている足下に手をかざす。するとそこから長い刺が現れた。



「……ッ血!?」



ただの刺ではない。それは血によって液体から固体化した刺だった。それをいち早く察したゆうきは槍でそれを凪ぎ払う。今度驚いたのはシングだ。強度された刺をいとも簡単に払われたのを後退しながらも汗を流した。凪ぎ払ったばかりのゆうきへ鎖が攻撃を仕掛ける。先にナイフがついた鎖は殺傷能力が上がっているが、ゆうきは慣れた動きでとばされた鎖を凍らせ、その氷は鎖を通して持ち主を襲う。持ち主であるミルミは指先を凍傷したもののすぐに鎖を棄てた。



「氷が速いですね」

「ああ、そうだな。ゆうき本人の戦闘能力も高いが、能力にも磨きがかかっている」



シングの盾になるように何歩か前に移動したミルミは凍傷した指をさすった。赤く腫れていたそれはみるみるうちに回復していった。まるで凍傷したのが嘘のように。



「へえ、テメェは回復系の異能か。見たかクレー」

「俺ゆうきより視力いいから言われなくても見える」

「るせえ!!ほんの0.1差じゃねぇか、よ!!」



喋っている間に接近したミルミがゆうきへ蹴りを入れようとしたがゆうきはわずかにそれを伏せて避ける。その伏せたところを狙ってシングがクナイを投げるがやはり弾かれた。再びミルミが脚で攻撃をしようとしたがその前にゆうきが槍でミルミを突く体勢になる。すぐにシングが軌道を剃らすためにクナイを投げた。そのせいか槍は本来ミルミの腹を刺すはずが、彼女の腹を擦っただけだった。だがミルミは破れた服の内側から血が流れるのを手で抑えながらも感じた。回復しよいとした時、突風がミルミの集中を遮る。
油断したミルミに再びゆうきが突こうとしたが、シングが血で網のようなものをゆうきとミルミの間に張ったが目眩ましに過ぎない。――と、その時、ゴオッと熱く、赤いそれと電撃が槍を纏った。ミルミが反応するよりも速く槍は彼女を狙う。ミルミは僅かに遅く腹から手を離してシングと同じく流れた血で防御しようとしたが間に合うか妖しい。



「ミルミ……!」



シングの異能である瞬間移動はゆうきの槍がミルミへ到達するよりも更に速くミルミの所へいった。シングはミルミを抱き抱えると槍がミルミの居た場所に突くと同時に離れた所に着いた。



「大丈夫か?」

「この程度、平気です。それよりも……、なんなんですか?あの炎は」

「……俺の異能。属性付加だけど」

「そうだ。炎は一人で戦えねぇクレーの。まあ電撃はあたしだけどな」

「一人でも戦えるし。ゆうきと違って」

「んだとゴルァ!!」



ゆうきとクレーがまた騒ぎだし、その間にミルミが傷を回復しようとした時、シングを目掛けて真っ黒な影が襲う。シングはすぐにそれを避けて、それの着地地点にクナイを投げた。



「ッチ……」



それの正体はカイトだった。



「なんでテメェがここにいるんだよ!!」

「……そろそろ時間」

「もうそんな時間か!?」

「?」

「もう帰る時間だとよ。……。まだ終わってねぇっつーのに」

「なら続けますか?」

「いや、帰る。おいてけぼりは御免だからな」



温度が暖かくなっていくのをそこにいる誰しもが感じた。ゆうきはあっさりと槍をおろし、シングたちに背を向けた。続けてクレーも背を向ける。



「卑怯な真似はしねぇよ。楽しかった。じゃあな」

「……」



カイトの背中を叩きながらゆうきは手を振り、その場を立ち去った。敵に対する行動ではないのは明らかだったが、それがらしく様になっているな、と追い撃ちをせずシングはミルミの隣に座りながら思った。