敵の敵は味方




ピタリと、ラカールの動きが止まった。



「……ちょ、ちょっと、それ本当なの?」



ラカールの手から飛んで、今まさに投げようとしていたナイフもラカールの手にくっついたままだ。ラカールよりも前にいる前衛のチトセはそんな主にならって自分も攻撃の手を休めていた。

彼らと対峙している一人の少女――雪奈は「だから……!」と、まだ言葉を呑み込めていない彼らに先ほど言った言葉を繰り返す。



「だからー、私たちの組織はもう解散するの!」



少し張り上げた雪奈の声にチトセはラカールへ振り向く。



「この戦い、無意味ってことになるよね?」

「そう。だけどこれが真実だとは言い切れないよ、お姫様。油断してるところをザックリ!!とか……」

「そうなるよね。今回の任務で偉いのは、サクラとリカとリャク様、ってかリャク様だよね?リカもボスになったんだけど」

「リャク様の指示がないかぎり独断で行動できないよな。でも俺としてはラカールに怪我をして欲しくないからその話は美味しいんだけど」



そうやって二人で会議を始めたカップル。油断しているように見えて隙がない。雪奈に対する殺気はまだあり、まだ戦闘の延長線上であった。
雪奈は長い橙色の髪を肩から払い除けて、二人の会議の結果を窓のさんに座って待つことにした。

長い廊下でつい先ほどまで戦っていたせいか、そこはボロボロになって汚かった。暇そうに雪奈はその汚れを見ていく。



「今まではウノ様からの任務だったから全部殺しちゃってたけど、今回はそういうわけじゃないし……」

「ま、俺は殺したくないな。だってこいつ、まだラカールに怪我させてないから。怪我させてたら全力で殺したいけど」

「なにそれ、私基準?」

「そ、お姫様基準」



チトセは両手に握っていた剣を戻してラカールに戦意が無くなったことを伝えた。ラカールはちいさくため息を吐く。視界の端にいる雪奈はとうに戦意どころか、殺気さえない状態だ。



「あっちもやる気ないみたいだし……」



ラカールはチトセに目で合図した。彼女の言うことを信じよう、と。

そのときちょうど月光が淡くなり、廊下がひんやりと暗くなった。



「冷たっ」



雪奈は窓から飛び下り、振り向いてそれをみた。ラカールとチトセも窓を視界にいれて固まってしまった。



「こ、氷……!?」



窓――いや、外壁全体に厚い氷が張られていたのだ。その下で戦闘を行っているのは……。



「まさか、この氷ってゆうきじゃ……」

「裏口にいたのって、たしか」

「シングとミルミだな」