サラマンダーとノーム




しん、とその部屋だけ静まっていた。外部からの音が一切入らず、静寂という言葉に等しい。そんな静寂を足音が貫いた。



「……ここか」



足音の主の声は幼い。声主はリャクだ。
部屋にはなにもない。殺風景そのものだった。リャクの声もすぐに消え失せる。部屋の中央までやってきたリャクは腕を組んで辺りを見渡した。
広くも狭くもない。いや、どちらかというと広い部屋でリャクは目を閉じた。



「隠しているようだが、この部屋のどこからか魔力が漏れている」



リャクは魔力が漏れている場所を辿ることに集中した。
その場所でなんらかの魔術を展開しようとしているのは明らかだ。その魔術はリャクたちにとって都合の悪いものである可能性が高い。こうしてリャクたちが攻めている状況下、そう考えるのが普通だ。

実際は都合の悪いどころか好都合なものだ。彼らは過去に帰ろうとしているのだから。

だが、そんなこと、リャクは知るよしもない。



やがてリャクは魔力が漏れだす先を見つけた。廊下へ繋がるドアの正面の壁。その先だ。常識的に考えるなら、その壁の向こうは外。しかし異能を前にその常識は通じない。

リャクは所持していた自分の武器を取り出した。リャクの武器はガンブレード。その名の通り、銃と剣を合体させたような武器だ。銃弾はリャク自身の魔力を実体化させた弾。いちいち弾層を換えなくてもいいし、威力を調整できるという利点がある。
リャクが銃口を壁に向け、同時に魔術を使用しようとしたその時だった。



「久しぶりってほどでもないんだけど、久しぶり」



そんな声がリャクにかかった。
リャクは突然したその声に振り向く。背後に立っているのは紛れもない――ツバサだ。



「リャクのおかげで右足は順調に動かなくなってきたよ」

「それはよかった」

「で、今は何をしようとしてるのかな?」

「逆に問うが貴様らは何をしようとしているんだ。……いや、貴様はこれからどうするつもりだ」

「……。テア元気?あのこが気がかりで仕方がないんだよね、俺」

「答えろ。どうするつもりなんだ」



リャクはツバサと対峙するように振り返った。

そこには杖を左手に握るツバサが壁に持たれていた。ツバサの右手からはボタボタと血が流れ落ちている。だが右手に怪我を負ったわけではない。彼の口端には僅かに血を擦った後が残っていた。吐血したことをうかがわせる。



「……貴様、"シナリオ"に……」

「そんなことはどうでもいい。そんなことよりさ、リャクたち帰ってくれないかな?」