長楽かに、静かに




「いつまで経ってもこの術は発動されない。それは術者が術を完成させる余裕がないからだ。それはわかるな?」

「言われなくても」

「そしてこの術の中にいる私たちは普段のように上手く術を展開できない」



幼い少女の姿をするリカから少女が発するとは思えない台詞を次々に出していった。
サクラは黙ってリカに目を向ける。



「私が上級魔術を展開させる。この術を切り裂く術を」

「……」

「サクラには術の解読を頼みたい。そして記憶をしてほしいんだ。……できるか?」

「俺を誰だと思ってるんだ。できるに決まってるだろ。任せろ」

「ふっ、助かる」



サクラが再び帯の解読に戻ったのを確認したリカは詠う。音と闇を混ぜた属性混合の上級魔術。リカが独自に発明した混合魔術だった。



「……無駄よ。その中で、術を使うなんて……自殺行為」



リカ達を黙って見ていた美紀は笑みを浮かべた。吐血は治まったが、全身を巡る激痛に集中が途切れてなかなか術を発動できずにいた。美紀は何度も発動を試みているのだが、魔力の流れを操れず失敗に終わっている。
そもそも美紀は呼吸をするだけで精一杯の状態、倒れないように脚に力を入れるだけで限界だった。



(どういうことだ?……これは……)



リカは詠いながら眉を潜めた。
先ほどから詠唱をして魔術を展開させるためにしているのに、いつも通り上手く集中ができていなかった。むしろ体の力が抜けていく。息も少しではあるが荒くなっている気がしていた。

リカと少し離れた所で解読をしているサクラにも違和感はあった。サクラも体の力が抜けていくことを感じていたのだ。



「術は発動できそうにないわ……。これは私と……あなたたちの、持久戦。……どちらの体力が先になくなるか……。」

「……どういうことだ」

「ある程度解読をした貴方なら、わかっていると思ったのに……、ね」

「……」

「……その術は……、魔力を吸収する、中神家血統の特殊召喚術……。私はそれを基盤にアレンジしたのよ……。他の特殊召喚術と融合させながら……。そうしたら、一撃必殺の、素晴らしい術が完成した……。今回は殺しまで発展できない……けれどね。……それでもあなたたちの魔力を吸収できるのだから、それで十分ね」



どちらが先に倒れるかな?
美紀は状況に似合わず、笑みを浮かべた。眼には殺気を残して。