絶命術




リカとサクラの足下に美紀の召喚陣が浮かび上がった。続いてそれぞれを囲むようにたくさんの文字が帯をつくった。
リカは詠唱を強制的に停止されて「なんなんだ、これは……」と動揺を隠しながら見回していた。

リカだけでなくサクラも術がわからず、とりあえず透明な線の召喚陣を描いていたが、それは文字の帯に吸い込まれてしまった。



「……っ!」

「サクラ、これはなんなのかわかるか?」

「正確にはわからないが、血筋的な術だと思う。あいつは闇属性の術師っぽかったけど、これには属性特有の流れを感じない」



サクラは舌打ちをして、頬に汗を流しながら術師である美紀を見た。余裕綽々にいるかと思っていたのだが、その予想は裏切られる。美紀は血をボタボタと流していたのだ。
口から血を吐き出している。それだけではなく、着ている学生服にも血がにじみ出ていた。



「げほっ」



全身の力が抜けて倒れそうになるのを手すりにしがみついてなんとか堪える。だが力をいれれば制服は赤くなる。



「あいつ、まさかナナリーと戦って、その怪我が治っていないのか……!?」



リカはチャンスだと、呟いたすぐあとに詠唱をした。下級魔術で帯から詠唱を護るための防御魔術を連続で詠唱した。次に中級魔術の防御魔術。

その間、サクラは帯の解読をしていた。解読を進めていくにつれてだんだんサクラの顔色が悪くなっていく。



「おい……リカ」



ちょうどリカが中級防御魔術を完成させたときにサクラは静かに、リカへ話し掛けた。リカはいつもより低い声のサクラを振り返った。



「これ、やばい」

「……やばい?」

「これが発動すれば俺たちは異次元にとばされる」

「い、異次元だと?」

「異次元は複数あるんだが……。異次元っていうのは俺たち召喚師が契約している召喚対象がいるところだ。異次元に限らず亜空間や異世界にもいるんだが、とにかく異次元は一番やばい」

「……!たしか異次元は向こうに行ったらもう戻ってこれない」

「そう。異次元からこっちへ引っ張ることはできるが……」

「そもそも異次元を越える耐性があまりない人間がいけばどうなるか……」



リカはすぐに美紀を視界にいれた。
美紀はまだ正常に術を発動できる状態ではない。



「サクラ、私に打開策がある」

「は?この術は術師が解除する意思がなければ……。それとも秘密型能力者かリャク様でないと解除できないレベルの」

「私の打開策を聞け」



サクラを黙らせたリカは展開した防御魔術に囲まれたまま静かに笑った。