月光に輝きながら水没



サクラはリカの詠唱をまもるためにあまりそこから動かず、召喚術を何度も繰り出していた。床は水浸しでどう見ても水属性をもつサクラが有利に見えるが、今は夜。闇属性の美紀も有利な状況下で、互いは一歩も動かない。

互いの召喚術で呼び出した水蛇と暗闇蝶月を駆使した攻防が続く。
今はサクラとリカの周りを水がドーム状の防御壁を展開していて美紀の方は何度も形を変えた攻撃を繰り返していた。



「……っ」



蝶々がサクラに水蛇に攻撃をしていた最中、美紀はぐらりと目眩がして立つことができずその場に座り込んだ。
美紀はシワを寄せて胸の中で舌打ちをする。



(怪我が完治できていないのに術を使うのはやっぱり負担がかかるわね……。……血が足りない。それに身体中が痛くて立つどころか座ることだって辛い)



ナナリーから受けた傷がまだ回復できておらず、美紀は口内に広がる血を外に出る前に飲み干す。階段の手すりに頼って立ち上がり、また陣を描く。



「……」



サクラはそんな美紀を水のドームの中から見ていた。黙ったまま見ていたが、すぐにリカへ目線を移した。リカは詠唱をほぼ終えたところで、もう少しで展開するところだった。
サクラはリカが終わらす前に召喚陣を描く。今度は水色ではない。透明の線だ。
だが何かが召喚された、という訳ではなかった。



リカの詠唱が終了した。

美紀は気を張る。

ずんと重い重い圧力が場を包んだ一瞬の次はリカの魔力が彼女を中心に波紋となった。


パンと風船が破裂したような音で水のドームは水を辺りに撒き散らして消え、水蛇も水に戻った。暗闇蝶月はすべて黒い焔になって塵と化した。



「……っぐ!」



美紀にも衝撃はあり、強い風が美紀を襲った。その風は美紀を傷付け、血を流した。

美紀は急いで防御陣を描く。



「リレーフ!!」



美紀が小さく描いた陣はバンッと大きくなり、美紀を護る盾となった。

盾に護られている間に美紀は傷を回復させる召喚陣を描き、傷を癒していた。
だが高い衝撃音がして美紀の集中が途切れる。顔を見上げればそこには盾に剣を降り下ろしたサクラがいて、背後にはサクラが召喚したらしい水の巨大な球が浮いていた。さらにその後ろではリカが闇属性の詠唱をしている。



「……本気、出すしかないようね」



美紀が呟くと右手に召喚陣が浮かび上がり、そこから刀を抜き取った。盾は解除せず美紀は後退して大きな陣を創りあげる。



「召喚術第六法"奇襲"」



美紀の大きな魔力が溢れた時、サクラは盾を破った。