水属性の召喚師と闇属性の召喚師



サクラが水色の光を放つ線を空間に素早く描いた。その線は召喚術を発動させるために重要な召喚陣となっていた。
階段にいる美紀はぴくりと眉を動かして、右の袖を捲っている。



「……」



無言のままサクラが召喚陣から取り出したのは一本の剣。



「サクラ、任せたぞ」

「任された。」



リカがサクラに言うと、歌を詠い始めた。美紀は首を傾げかけたがすぐに、はっとした。サクラは剣を持ったまま再び召喚陣を描いている。



「歌……、じゃないわね。音属性独特の詠唱――しかも上級クラス」



美紀は苦い顔をしてサクラよりも速く召喚陣を描く。美紀が生み出したのは紫の召喚陣。キラキラと輝いていて見ているだけで吸い込まれてしまいそうな、幻想的な召喚陣だった。その召喚陣を見てサクラは眼を鋭くさせた。
召喚陣を見るだけで相手の実力の大方はわかってしまう。サクラの美紀に対する実力評価は「……冗談だろ」だった。自分より少し年下の美紀の召喚陣は質がよかった。流れる魔力に穢れはいっさいない。召喚陣だけに集中していて他に意識がない。才能がある術者だ。だが美紀はその実力を才能だけで終わらせず、努力も重ねている。

そしてサクラより一瞬速く召喚術を発動させた。

月光が当たらぬ影の部分からユラユラと体を揺らす大量の真っ黒な蝶々が出現した。だが次の瞬間にはサクラが召喚した蛇が現れる。蛇は水で出来ているようで、月の光が体を透かしていた。不思議な気持ちにさせる蛇は蝶々よりも少ないが何匹もいて、サクラと詠唱歌を詠うリカを囲うようにしている。



「水蛇……、珍しい召喚対象ね」

「そちらこそ、その蝶は召喚するための契約が難しい暗闇蝶月」

「知ってたの?凄いわね、この子たちの文献はあまり無いのに」

「だてに補佐をしていないということだ」

「なるほどね……。私だってだてに次期当主候補じゃないってことを見せつけてあげるわ」



美紀が不敵に笑うと一匹の暗闇蝶月が真っ直ぐサクラに飛んで行く。サクラは避けたが、サクラの髪が宙を舞っている。遅れてサクラの頬から血が流れた。



(今、避けたはず、なぜ……?)



詠唱するリカが心配した瞳でサクラを見上げた。
サクラはリカにそのまま詠唱するように呟くと、何匹かの水蛇に蝶々を襲わせる。蝶々を次々に喰らう水蛇の腹には喰らった蝶が足掻いているが間もなく黒い液体になって溶けていく。

だが喰らっても喰らっても蝶々はいっこうに減らない。
サクラは無表情のまま剣の柄をギュッと強く握り締めた。