水浸しの一階


ただの炎じゃない、それでもそれは炎。



「あっつ……」



とにかく明から離れて左手に握っていた拳銃をしまって、刀を替わりにとる。鞘を廊下に投げ捨て、右手の銃を明に向けて警戒心を高めた。

明の後ろにいる光也も驚いていて、なにか叫んでいるようにも見えたが炎のせいか何を言っているのかまでは聞き取れない。
明は立ち上がろうとしないで頭を抱えるようにして座り込んでいる。



「明……?」



オレは体制を変えず、動揺してそれを見ていた。




















リャクが扉を水に変化させたせいで一階の床は水に浸っていた。



「……サクラ、か」

「さっきぶりだな、リカ。」



長い廊下の中央、玄関の扉があった場所と二階へ上がる階段があるそこにばったり顔を合わせたのがリカとサクラだった。正面玄関から入っていったリャクの姿はすでにない。



「ここまで誰もいなかったのか?」

「いないからここまで来た。」



もっともな答えだ。
リカは念のために「部屋の中も見たか?」と聞く。「見た」とサクラ。



「むう……。では一階には誰もいないということか。――裏口以外」



そっとリカは目を階段の奥へ向けた。階段の奥からはゆうきの声や鎖の音などの音が響いていてシングたちが戦闘をしていることが分かる。
リカはあ、と気がついた表情になって髪を揺らしながらサクラを見上げた。



「地下への入り口はなかったか?私の方はなかったが」

「ない。隠し扉もなかったな。念入りに調べたし」

「そうか。ならば一階は済んだ。二階に……」



リカは続きを言おうとしたが、中断することになった。二階へ繋がる階段から降りてくる一人がいたからだ。
それは美紀。ナナリーと戦った美紀だ。怪我をしているが封術や己の術でなんとか塞いでいる危うい身体。美紀はついさきほどまでボスや、ツバサたちともとの世界へ帰るための術を展開させる人柱になっていたが、侵入者の出現によって美紀はそれを中断させた。今はボスが美紀の分を補っている。



「あら、あなたたちが侵入者?」



薄笑いを浮かべて階段からリカたちを見下ろしている。月明かりしかないせいか美紀の笑みに影が射して薄笑いも濃く見えてしまう。余裕にしている美紀をサクラが髪に隠れていない左目で睨み、場は殺気が漂い始めた。



「貴様……」

「お客様、玄関から入ってくれない?いまは扉ないけど」



水になった扉は一階を濡らしている。