滴りおちるのは誰の血
「まだ、消えるわけには…いかない、のになぁ…。まいっちゃうよ…本当」
ツバサが、美紀やボスたちの部屋へ向かう途中の廊下で歩きながら独り、呟いた。
明たちと少しだけ雑談をし、月光だけが頼りの薄暗い廊下に出た。その直後に咳き込み、口内に鉄の味が広まるのを感じた。咄嗟に左手で口を抑えると、ボタボタと血があふれる。左手は血の粘りけを纏った。ツバサは構わず、杖をついて歩く。 リャクに魔術をかけられた右足は日に日に重くなり、全身がずっしりとしている。頭の中を探られているような感覚はずっと続いていてなれることはない。
「……っ」
誰かが居る。 プツンと何かが切れた。 その二つの感覚。ツバサは暫く立ち止まったが、すぐに笑って、再び歩き出した。
「なんだ、もう来たんだ…」
口につく血を拭った。 ツバサは歩くスピードを上げて、急いで目的地へ進む。窓から見える己の仲間を見ながら。
「ツバサ大丈夫かなぁ」
「ん?どうしたんだよ、明」
明が応接間で眠そうに目を擦っていたときに呟いた。光也はコーヒーを飲みながら明を見る。普段ならばもう眠っているほどの時間。 なぜ起きているのか、といえば理由は単純。
ボスを含めて美紀、瑞希、ゆうり、ツバサが過去へ帰るための扉を開いているからだ。 もうすぐで帰れる。そう思うだけで嬉しかった。だが、その反面心配もある。ここに来てしまった以上、知ってしまったのだ。
過去ではわからなかった遠い未来が。
明はツバサの事情を知った。 彼一人を置いて帰ってもいいのだろうか。
そんな罪悪感があった。
「さみしくないのかなって」
同じ部屋にいるゆうきとクレー、雪奈は黙って明の言葉を聞いていた。 そんな時だった。
ドォォオ
地が唸るような音が屋敷いっぱいを襲った。
「な…っ!?」
「んだよ、いきなりッ!!」
「ゆうきうるさい」
光也と騒ぐゆうきが武器を手にとった。 光也は二つの剣を召喚し、ゆうきは愛用している槍を握る。クレーはゆうきにうるさいと言っていた。
その音の後には水が流れる音、直後には窓が割れた音、爆発する音、様々な破壊音がして、最後にはパンパンと発砲する音までする。 雪奈はそれぞれがする音を聞き分けてつらつらと言った。
「三階は私が行くよ!」
「あ、まて、俺も行く」
「三階は二ヵ所からだった。」
明が言うと、光也も言った。雪奈も三階へいくことになり、即行動といわんばかりに三人は部屋を出ていってしまった。残ったゆうきとクレーは目を合わせる。
「正面と両サイドはボスさんがなんとかするだろ。あたしたちは裏に行くぞ」
「了解」
彼らがこの世界から消えてしまうまであと少し―――――
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