空間転移能力者




ソラたちがミントに背を向けてバラバラに移動した後、ひとり残った彼女はにこにこと笑っていた表情を消した。
その表情は月明かりの丁度影となり、伺えないが、それは悲しく怒りを抑えた表情。



「絶対に、私が…」



小さく呟いた。
ぎゅっと握りしめた拳には力が入りすぎている。


カサカサ


葉っぱの揺れる音。
風はない。

ミントは表情をまた変え、任務を遂行しようとする表情にうってかわった。
辺りを見渡す。誰も居ない。気配もない。だがここで安心するほどミントは寝ぼけた訓練をされていない。
ミントは辺りを見渡すことを止めた。
そして木が大きく揺れた。



「っ!!」



背後から黒い影が木の上から落ちてミントの立つ場所を狙った。
ミントは影の正体を確認するよりも速く数メートル後ろに飛んで影の蹴りを回避。



「ッチ」



影は舌打ちをすると、回し蹴りの勢いで一周回ると着地と同時に低い姿勢になり、バネのように弾いてミントにむかった。ミントはテレポートで避ける。だがミントの着地地点を一瞬視界に入れた影は尋常ではない速さで再び近付く。ミントはその速さに身動きがとれなくなり、そのまま鳩尾の攻撃を許してしまった。

勢いで後退したミントはその場で膝をついて嘔吐し、影の続く攻撃を近くにある木をテレポートで自分の前に出して盾にした。

ミントは空中へテレポートするとそこから影を見下ろした。
影の姿が月明かりに照らされる。

真っ黒の髪が影の右目を隠し、覗く左目は赤い。
悪寒さえ感じるその眼を睨むミントの胸には敵を殺すという目的はなかった。

邪魔を排除する

影―――カイトはミントの邪魔でしかなかった。

ミントにとって今夜が最後のチャンス=Bそれを邪魔されるわけにはいかなかった。



「邪魔ですよ、狩人」



ミントの低い殺意がこもった声。普段の彼女からは考えられない雰囲気。
カイトは目を一瞬だけ見開いた。ミントの雰囲気や声に反応したのではない。「狩人」という言葉に反応したのだ。



「黙れ異能者。邪魔はお前だ」



まるでもとの世界の住民であるカイトに、ミントは違和感を覚えた。
だがそれを口にするよりも落ちてくるミントに向かって跳ぶ。ミントさ攻撃される前にテレポートをした。

カイトは重力に従って落ちてくる。
ミントの頬に汗が伝った。

――夜なのに周囲の気温は上がる一方だった