いってらっしゃい



「待ってください!!リャク様!!」

「ナナリー、まだ安静にしてなきゃだめだって!」



いざミントの能力で行こう、という矢先にナナリーが割って入ってきた。
浴衣に白衣、裸足で髪もいつものように緩く縛らず解いた状態。そんなナナリーが走ってきて、周りの目を気にせずリャク様の前に立った。

ラカールとチトセは何事かと驚き半分、好奇心半分という目をしている。ちなみにオレも。

ナナリーの後ろから着いてきたエテールは降参したようにため息をついた。



「ナナリー…」

「リャク様、私も行きます!!本来、怪我は数日も前に治っています!!」

「ナナリーは安静にして、」

「私も行きます!リャク様だけ行かせません!私は補佐です!!お願いです、行かせてください…っ」

「……だ めだ」

「何故ですか!ノーム様だけ行かせるなんてできません!!私を信頼していないからですか、私じゃ足手まといですか、材料にすらなれない私が行っても……っ!!」



……ノーム様?
材料?

ナナリーは泣き崩れ、リャク様の腕を掴みながら泣いた。
リャク様はナナリーから目を離さないで、その小さな手で何度も何度もナナリーの涙を拭いた。拭いても拭いても溢れる涙に追い付けず、ただリャク様の手袋が湿っていく。


ナナリーの言葉は想い。
ナナリーの言葉は重い。

ただの言葉ではなかった。なにか、泣き叫ぶ悲痛な声があった。それが聞いているだけのこちらにも伝わって、痛くて。

ナナリーのリャク様への依存は計り知れない。ボスと補佐、上司と部下。それだけでは足りない。恋愛とは違う。恋愛をこえる信頼、依存。他の、もっと、何か。

残念ながらオレの語学力ではそれを表現する言葉はわからない。



「ナナリーは、待っていて欲しい…」



リャク様も、ナナリーと同じく表情をしていた。涙を流すことはなくても、リャク様とナナリーは同じ感情を抱いてる。



「あとで、愚直は聴くから…」

「いっしょに、愚直をいいたい、です」

「おたがいの」



エテールが優しく笑みを作ったのが目に入った。
ラカールとチトセは強く手を繋いでいた。
リカはサクラの傍で目をふせていた。


泣き崩れていたナナリーはゆっくり立ち上がり、落ち着いた様子だった。ナナリーの少女のような容姿は大人びている。

そしてオレたちに

リャク様にひとこと



「気を付けて、いってらっしゃい」