小さな影



「いいのか?」



明とツバサの頭を撫でる光也。その様子を、ちょうど曲がり角の見えない壁から覗く多数の人物。ゆうきとクレー、雪奈だ。そしてもうひとつ、小さな影。

ゆうきは腕を組みながらその小さな影に問いかけた。影はゆうきを見上げたあと、少し悩んだ顔をした。



「なにが?」



雪奈と手を繋ぐその小さな影は困ったような表情になった。
雪奈は影の頭を撫でる。



「なにが?って…。」

「俺はツバサが自分を責めてるのを知ってたから、それを止めてほしかったの。俺が言っても聞かないし。」

「そんなモンか?お前だって」

「ゆうき」



雪奈がゆうきを遮る。影の表情に悲しみがあったのだ。「悪い…」とゆうき。

小さな影は雪奈と繋ぐ手に力を込め、目を閉じる。



「わかってるよ。俺がさみしいって」



小学生から中学生程度の低い身長の小さな影はうつむいた。流れる金髪に混じる黒が際立つ。
雪奈は変わらず影の頭を撫で続けていた。

明の泣き声のせいか、場は湿っていた。



「外行かね?」

「外?」



ゆうきの提案に、聞き返したのは今までなにも言わなかったクレーだった。ゆうきは頷き、スタスタと廊下を歩いていった。窓から差し込む昼間の日差しがツキツキと肌に刺さる。

先日、ソラたちが奇襲してきた地下はもう跡形もなく爆破している。彼らに見つかったせいであらゆる組織から目をつけられたのだ。だからボスが所有する屋敷へ移動している。



「あたし動かないと落ち着かねぇからさ。久しぶりに手合わせしね?」

「2対2で?いいよ」



雪奈がよし、とゆうきのあとについていく。繋がれた小さな影は有無をいう暇もなく連れていかれ、相変わらずの彼らに苦笑した。



「お前だって長い間動かなかっただろ?」

「酷いな、動いてたよー。甘く見てると、怪我しちゃうよ?」

「その言葉そのまま返してやるよ、ガキ」



傍らで聞いているクレーはため息をついた。そしてもうすぐで玄関にたどり着く、そんなときにたまたま鉢合わせたのが瑞希だった。

小さな影は瑞希と目が合う。それから互いに立ち止まり、指一本動かせない沈黙が流れ始める。



「……なん、で…」



ポロポロと涙を流しはじめる瑞希に小さな影は驚き、雪奈と手を繋いだまま彼女に駆け寄った。



「ど、どうしたの瑞希っ!?」

「久しぶり過ぎて、涙…止まらな……っ」



その場に座り込んで瑞希は涙を拭おうとして止めた。かわりに小さな影を力一杯抱き締める。



「生きててよかった」



この世界に来る前に、小さな影が死んでしまうところを目撃していた瑞希はただ「よかった」と消えてしまいそうな声で呟く。