「‥‥‥に、ニセモノって?」



不安を浮かべる明の胸は何かに騒ぎ始め、落ち着かない。脳裏に映るのは幼い姿のツバサ。
目の前にいる青年姿のツバサは柔らかく笑った。



「"シナリオ"のことは知ってるよね?」



ツバサは"シナリオ"の事を明たちに話していた。思ったよりスラスラと口から語り出る言葉に「やっぱり俺≠フ居場所はここなんだ」と確信せざるおえなかった。
リカたちがいる場所ではなかった。
ツバサが求めるのは明たちがいる此所。



「うん…」

「ニセモノとそれが関係あるのか?」



明と光也は同じ顔をしていた。
ツバサを気にかけるその表情。



「実は俺は幻術で造り出した物体なんだよね。"シナリオ"に縛られて自分を喪う事を恐れた本物の俺≠ェ造り出した身代わり。だからニセモノ。俺は空っぽの器で、感情は無いし、俺≠フ思い通りに動く人形。笑った顔だって、泣いた顔だって、吐く言葉も存在も全部嘘。幻術にしては精密でしょ?ま、他人にバレないようにするために本体である俺≠ェ熱心に造り上げたんだからなかなかバレないよ。ていうか絶対にバレない代用品。今吐いてる言葉だって本体の代用として喋っているだけで―――――」

「    」



明がツバサの名前を言って抱きついた。その名前はツバサが使う偽名ではない。本当の名前。ツバサの本名を知るのは彼の幼馴染みと明だけ。
ツバサの流れる血がドクンと大きく波打った。巡るスピードが速くなった。

明はツバサの胸に耳を当てる。
抱き締めた腕に力をこめて、。





「心臓、ちゃんと動いてるよ」





気持ち良さそうに明が目を閉じる。



「ばかじゃねーの?」



光也がふっと優しく笑った。

二人が込めた言葉の意味が、ツバサにじんじんと伝わる。頬を己の涙が伝った。



「俺、は…」

「ツバサの嘘つき。ツバサじゃないけど、貴方はいまここに在るよ。……えっと、上手なことは言えないけど、なんていうか、……うん。変わってないね、ツバサ。おかえりなさい。手を洗って、うがいしてね」

「―――っ、明ねーちゃん、ただいま。俺はそんなことしなくても病気にならないって、この前も言ったよね」



ツバサが泣き、明も泣く。その場で泣き出す二人の頭を光也が撫でた。