被害者





オレたちが医務室に到着してからどのくらい時間が経っただろう。はじめは医務室を管理しているエテールに、ベッドで横になるナナリーの容態を聞いていた。二週間すれば治るほどの怪我らしい。治癒系の異能をしようして、だから怪我は大きなものだ。
布団を肩まで被っていて、顔や頭には外傷はなさそうだ。だが、本来はそこにも痣や擦り傷などがあったらしい。リャク様の魔術でその怪我は完治したと、ナナリー本人が言っていた。
布団におおわれた身体の部分は一体どうなっているのか、わからない。



「―――――――――――――――」



そして現在。ナナリーは封術の詠唱をしている。

どうして今なのか、まだ理由は聞かされていない。この封術はオレとシングに当てた封術で、もちろん"呪い"の侵食を抑えることが目的だ。シングにはミルミと契約があるのだが、念のため、だそうだ。

この医務室にいるのは、窓際から外を眺めているエテールと、怪我人であるナナリー、オレ、シングとミルミ、そしてミントだ。ルイトは情報(諜報ともいう)エリアへ行っているらしい。ということはレイカも研究エリアだろう。
蛇足かもしれないが、ナナリーが攻撃をうけたことで今集会が行われているらしい。対策が議題だろう。ボスの補佐、つまりこの組織で高レベルの異能者がやられたのだ。それも一晩のうちに。昨日も集会があって、そこでナナリーは出席していたらしい。ナナリーは異能者でも上級者に当てはまり、たとえ一人の封術師だろうがそうそう倒せるわけがない。

と、ミントが言っていた。相手はナナリーより更に上の実力を持っていると推測される。
ナナリーの証言では、襲撃者は「中神美紀」と名乗ったそうだ。



「美紀……、それって」

「『黄金の血』に所属している召喚師ですよ!」



その名に心当たりがあって、つい口に出してみるとミントが答えを出した。
するとミルミはこてん、と首を傾げながらひとつの疑問を言う。



「ナナリーさんはどうやって美紀という方と接触したんでしょうか?」



パイプ椅子に座るシングが斜め後ろに立つミルミを振り返った。二人はしばらく見つめ合っていたが、同じタイミングで首を傾げてそれをやめた。



「見張り、といいますか、警備といいますか……。それをしていたときに受けたんじゃないですか?」

「警備?」

「はい。夜になると少しだけこの建物の周囲を歩き回って警備をするんです。補佐は」

「へぇ…じゃあナナリーはその時にやられたの?」

「おそらくそうです。」