裏切り




「……は?」



なんでツバサがこんなところにいるわけ?しかも敵視されてないし。

嫌な可能性が頭を過る。

まさか、そんなはずは…。そもそもツバサは四人のボスのうち一人だ。考えにくい。ああ、でもゆうきはツバサと親しいと言っていた。



「ひさしぶり、ソラ。大丈夫?」

「……な、んで…ツバ……」



杖をついたツバサが笑みをオレに向けていた。驚いていたのはオレだけではなく、ゆうりもそうだった。
目を丸くして、ただツバサを見ている。



「なんでって言われてもなぁ…。誘惑にまけちゃった。」

「誘惑…?」

「凄いよね、大人の女って。」

「……裏切った、の?組織を…」



杖をつきながらツバサは質問に答えずオレの前に座る。雪奈はツバサの後ろに立っていて、ゆうりは少し間があるけどオレの隣に座っていた。

全体図からいえばオレは囲まれているような状態。



「俺にも事情があるの」



「失礼、」とひとこと言ってツバサはオレを抱き締めるようにして、怪我をしているオレの手をツバサの手がおおった。

なにをする気だと思って警戒していたら、



「ぐぁッ…!!」



傷口にツバサの指が食い込んだ。

体験したことがない違和感と激痛で全身の汗がわく。一瞬で頭が真っ白になって、意識が飛んだ気がした。痛い、なんて言葉じゃ足りないくらいの、激痛。

けれど刹那、すぐに痛みが引いて数秒にわたる痒みが傷口に現れる。

ツバサはオレから離れると、ゆうりと雪奈に部屋から出ていくように言う。
二人はツバサを信頼しているのか、すぐに出ていった。



「何をしたの…?」

「傷口を治した。他にどこが痛い?」

「え…、腹…とか。肩も動かないけど…、なんでこんな…」

「ああ、これは酷い。内蔵が気になるわ。よく吐かなかったね。肩は脱臼してるみたいだし、相変わらず容赦ないな、カイトは。」



服を捲ってツバサはオレの痛いと訴えた所にてのひら当てて次々に治していく。肩は無理矢理治された。変な音と声がしたけど。



「ボスさんや美紀たちには俺がソラを拷問していることになってる。」



声を潜めてツバサはオレと目を合わせた。

相変わらず冷たい目だ。すべてを見透かすような、バカにするような、恐怖を与えるような眼だ。



「俺はここからソラを逃がす。」

「ツバサは裏切ってないの?」

「言ったでしょ。俺にも事情があるんだって。今は22時…、あと2時間後に脱走してもらう。このままここにいたら拷問地獄だよ」

「ツバサは…」

「俺はもう少しここにいる。……あははっ、俺は大丈夫だから。そんな顔しなくても…!」



わしゃわしゃーっと頭を撫でてツバサはオレの手錠を外した。