"呪い"の刻印





オレは記憶喪失ではなかった。
記憶を封術で封じ込められていただけだった。だからか。記憶喪失ではないからか。ブルネー島で起こしたあの事件を思い出しても取り乱さなかったのは。だからか。初めてミントとラカール、チトセと行ったはずの任務で混乱しなかったのは。ああ、そうか。

糸が繋がった気がして、なんだか納得した。



「じゃあいっきにソラの記憶を戻したりできねーの!?」

「あ、そっか。封術だったなら」

「それは出来ないの」



チトセとラカールがナナリーを直視するが、ナナリーは苦笑して首を横に振った。



「私は術を解除するだけだから楽だけど、ソラの負担が大きいよ。記憶をいっきに戻したら脳が処理しきれなくなっちゃう」



ラカールとチトセのがっかりした声がする。シングは「気長に待てばいいだろう」と宥めていた。横にいるミルミも「そうです。急ぐことじゃありません。」とシングに同意していた。
ボソボソとリャク様の呟く声が耳に届いた。
意識をそちらに向けると、リャク様はオレの腕に刻まれた"呪い"の文字を読んでいる様だった―――――読……っ!?



「――――…」



それも終盤だったらしく、すぐに読み終わってしまって結局なにが刻まれていたのかわからなかった。



「ザシュルンク、左腕を見せてくれ」



誰の事をいっているのかわからなかったが、どうやらリャク様はシングを呼んだみたいだ。ザシュルンクというのはシングのファミリーネームだろう。

横でせっせとレイカが紙を替える。
シングはミルミに上着を渡し、ネクタイとカッターシャツを脱いだ。ネクタイとカッターシャツもミルミが持っている。露になる、シングの左腕。

初めて見た。

左腕の二の腕にびっしりと刻まれた黒い文字や記号。それだけでは刻みきれないと言わんばかりにそれらの文字や記号はシングの左胸にも刻まれていて、鎖骨の部分も文字や記号で黒い。シングはカッターシャツとネクタイをしっかり着てそれらを隠していたのだ。



「………っ!!」



驚いた。刻まれた"呪い"は背中にもあったのだ。背中の上部は"呪い"で埋め尽くされている。



「ベファルンにもこれらはあるのか?」

「はい。マスターの刻印の模造品のようなものですが。」



リャク様はオレの刻印とシングの刻印を何度も見比べてはレイカに何か記入するようにいっている。よこでリャクを見ていたナナリーの表情もだんだん真剣なものに変化していくのもよくわかる。