契約者





「お姫様、キスしよ」

「え?な……」



ラカールの返事を聞かずにチトセは彼女を引き寄せた。チトセはベッドに横たわっているにも関わらず、ラカールと上手くキスをする。



「なんか気まずいな」

「気まずいですね。」



その隣にあるベッドにいるシングとミルミは呟いた。その割に二人はちゃっかり彼らを見ている。

仮眠室のベッドで無心状態から起き上がったばかりのミルミとチトセは、傍らにいた自分の主人と話していた。起きた瞬間からいちゃいちゃするラカールとチトセを見ているシングとミルミは気まずかった。



「マスター、迷惑をかけてすみません…」

「迷惑だなんて思っていない。体調はどうだ?」

「良好です」



この会話がちょうど終わった頃にキスが終わり、ラカールは息を整えることに精一杯だった。
やはり気まずいシングたちは目線を仮眠室の中を適当に泳がせた。それはもう、不自然なくらい。



「わ、私、チトセとミルミにりんご剥いてくる…っ!」



だっ、と逃げるようにラカールは仮眠室と小さな調理室を仕切っているドアを開けた。実際、ラカールは恥ずかしくて逃げた。その際にチトセは「俺うさぎがいいー」と注文していた。



「マスターマスター」

「なんだ?」

「今、何時くらいですか?」

「深夜の……、2時だな。」

「そうですか。マスター、寝てください。」



ミルミがはっきりそう言うと、シングは困ったように笑った。チトセはそんなシングをみて「まだ治ってないのかよ?」と問う。



「未だに薬がないと寝れん。」



シングはソラのように、頻繁に"呪い"に侵食されることはない。
契約相手であるミルミと寿命などを共有しているためだ。さらに、シングはソラの寿命を喰う"呪い"ではなく精神を蝕む"呪い"だ。
だが、寿命を共有したり効果が違ったりしても結局は"呪い"。それには変わりない。

"呪い"の侵食を受けていることがよくわかるのは夜だ。睡眠。この行為ができない。強力な睡眠薬を投与しなければ眠ることができないのだ。薬による副作用はミルミの治癒能力で癒しているが、眠ることができないのは問題だ。



「不安ですか?」

「……そうだな。自分でもよくわからないが。安心が出来ない。」



感情面での共有はない。
不安などはいくら契約をしてもどうしようもないことだった。

シングとミルミは同じ部屋で暮らしている。それは契約していて、二人は物理的に離れてはいけないということが理由である。が、いくら契約をしているからといって数十メートル離れた程度で契約には支障はない。
二人が同じ部屋で暮らしている理由は、やはり"呪い"が関係していた。



「マスター」

「わかったわかった、寝る。」

「私もりんごを食べたら寝ます。おやすみなさい」



かたい信頼で結ばれた二人が少しの間の別れを告げた。
チトセは「やっぱ皆わけありだな」と自らの心臓がある胸に右手を添えながら呟いた。