診察前



「失礼します…」



レイカの小さく高い声と、一瞬遅れたドアが開く音がなり、オレとレイカは仮眠室に入った。中にはシングとミルミ、ラカールとチトセがいた。奥の方にはリャク様とその補佐。



「あ、きたきた。人手が足りなくてー。ソラはミルミちゃんとチトセくんのあとで診るから待っててね」



補佐がオレたちに気が付いて、近寄ってきた。
診る……って、"呪い"のことかな。まあ、それしかないんだけど。

オレは適当にベッドに座ってリャク様たちの様子を見ようと思った。チトセが上の服を脱いでリャク様が診ている。チトセの横でラカールが心配した表情で居て、チトセは慰めているような状態だ。補佐は「こら、動かない!」とチトセに注意をしている。



「ナナリー、私は何をすればいいのかな…?」

「レイカはリャク様が言ったことをこの紙に書いていけばいいよ。まあ、選択式だし楽だと思うよ」

「うん、わかった」

「私はショタを見ているという重要なお仕事があるから手伝えないけど、ごめんね」

「……う、うん」

「バカか!」



戸惑いながらもレイカは仕事を引き受け、リャク様は補佐にその続きを言おうとした。しかし補佐は頬を染めていて「リャク様かわいいです!!」といっていてリャク様は落胆していた。



「チトセは健康的。契約にも支障はないな」

「はい、ありがとうございます。」



チトセは頭をさげてからすぐにラカールに抱き着いた。ラカールはそのままチトセの力に負けてベッドに倒れこむ。ラカールはよしよし、と背中を撫でていて、どれだけ二人がバカップルなのかがうかがえる。
ミルミは上半身を薄着にして、リャク様に診てもらっていた。



「ソラ、久しぶりだな。大丈夫か?」

「久しぶりシング。通常通り、なんともない。」

「そうか。それならいいが、無理をするなよ。記憶があれだから」

「………ていうかさ、オレって記憶喪失なの?」

「どういうことだ?」



昨夜、ずっと考えていたのだ。記憶について。ブルネー島という、オレの出身地で起きた―――否、オレが起こした大量殺人事件。

これは衝撃的な事実だ。
なのにオレは挙動不審にもならない、心、精神に全く変化がない。いくらひねくれていてもこれはおかしくないか。考え直してみればおかしい。



「メディアからの情報なんだけど、記憶を戻したら錯乱するんじゃない?ブルネー島のやつとか、オレ、なにも…」

「記憶を戻したのかソラ!?」



シングは驚いた表情でオレの両肩をつかんだ。

――――ああ、そういえばそこから話さなくちゃいけないのか。