It halts.





両手にお茶をもったリカがサクラを連れて来たとき、オレは何事もなかったかのように正常であった。

ガラス張りのテーブルをはさんで、リカとサクラが座りオレの話をきく体勢になった。



「取り合えず、まずはこれ。」



ツバサのメモをリカとサクラの前に出す。サクラはそれを手にとり、「何だこれ」と見ていた。



「あ、もしかして暗証番号か?」



たった数秒前の呟きが嘘のように答えを弾き出したサクラに、オレは頷いて返事をした。



「つまりツバサは『黄金の血』にいるのだな?」

「うん。別に裏切ったわけじゃないみたい。」



リカは彼が裏切っていないことを確信し、そっと安堵のため息をついた。



「その暗証番号やると、『黄金の血』の戦闘データ?が解るらしい。でもツバサは『黄金の血』と知り合いみたいで…」

「ああ、それらしいことは知っている。」

「それで、そのデータはあっても彼らを殺すなって。……殺したら、そのときはここを裏切り『黄金の血』側になるって…」

「殺すな、か。難しい注文だな。」



なにか考え込むようにリカは右手を顎に添えた。その間、サクラがノートパソコンを持ってきてオレがさっき渡した暗証番号を打っている。



「他のボスたちと相談しよう。ソラ、ありがとう」

「どういたしまして」



取り合えず、言いたいことは終わった。
立ち上がって帰ろうと背中を向けると、その背中にサクラの声がかかる。



「仮眠室にいけ。研究エリアにある。そこらへん歩いてる奴に聞けば場所はわかる。」

「?わかった」



オレは言ってから書斎を出た。真っ黒な廊下にペタリと背中を合わせる。袖を捲って左腕を見と、そこには相変わらず訳のわからない記号や文字が整列していた。

とくに異常はない。
いや、こんなものが左腕に刻まれていること自体は異常なのかもしれない。



「………ラリス」



先ほど聞こえた声主である少女の名前を呟いた。
あれはなんだったのだろうか。幻聴?

そうやってしばらく考えていたが答えは見付からない。もともと考える事は得意ではないし、サクラに言われた通り仮眠室へ行くことにした。
その道中に眼帯をつけた少女に会う。彼女とは一度だけ会ったことがあってなんとなく覚えている。シングとミルミに見せてもらったアルバムにもいた。

確か、名前はレイカ。

軽く会話と自己紹介をする中でレイカも仮眠室に用があることがわかり、一緒に行くことになった。