謎の少女






漫画とかでよくあるような山積みの書類はないものの、リカは忙しそうに手を動かしていた。



「リカはその机使わないの?」



黒い、明らかに上司とかが使いそうな高級なデスクを指差した。いつかツバサがそれを使っていたことがあるのを思い出しながら単純な疑問を口にした。



「あぁ、あれか。」



リカは手の動きを止めて目線をデスクに向けた。少女にしては大人びた笑みを浮かべてから「あれは私のデスクじゃないからな」と言葉を紡いだ。

……そうか。
リカはツバサが帰って来るのを待っているのだ。信じて、待っている。
信頼しているんだ。



「ところでソラ、用があって来たんだろう?」

「ああ、うん。オレが『黄金の血』にいるとき、ツバサに会った」



ピタリとリカの動きが止まった。

オレは唐突過ぎたかな、と思ったが言ってしまったことはしょうがない。



「詳しく話を聞こう。」



広い書斎の中央に置かれているソファに座るように促された。素直にそこに座るとリカはサクラを呼びに離れていった。その間は暇だから書斎をぐるりと見渡していた。そしたら少し、いやかなり古い鏡が視界に入った。

遠くにあるが、オレは能力を使ってよく観察してみることにした。

その鏡にはところどころヒビが入っていて、肝心の部分はしろぼけていて鏡としての役目は終わらせていたように見える。なのにどうして飾ってあるのかわからない。



「変」



ただ、そう呟いた。



『そうね。わざわざ飾る意味がわからないわ。』



すぐ後ろで同意する声がした。



「っ!?」



言葉が出ないくらい驚いた。



『見つけたわよ、ソラ』

「……な、」

『まさか生きてるなんてね』



振り向こうとしたが、左腕が焼けるように痛くてそれを諦めた、右手で左腕を押さえ付ける。そうしないとなにかが起きそうで怖かった。

背後に気配はない。けれど声がする。誰かがいる。



「―――――ラ…」



この人、知ってる。

彼女の名前が不意に口からもれた。



「ラリス……」



呼吸が荒くなり、全身から汗が流れおちる。視界が暗くなるのを感じた。意識が遠退く感覚がして気持ち悪い。頭痛がガンガンと頭に響き渡る。左腕はギザギザに切り裂かれている様だ。



『……。嫌ね。』



そのひとことを残したきり、ラリスは話し掛けなかった。いや、消えた。
痛みがひいて、後ろを見ればそこには誰もいない。書斎の風景だけだった。