問い詰め
「ちょっとツバサ!!どうしてソラを逃がしたの!?」
『黄金の血』の廊下でツバサが瑞希と歩いていると後ろから美紀が息を切らせながら叫んだ。 ツバサと瑞希が会話を中断させて後ろを振り向く。肩を上下に動かす美紀の顔は紅潮していて、明らかに体力の限界がうかがえた。
「美紀ねーちゃん、体力ないねー」
「うっさいわね。それよりも」
「ソラの事でしょ」
美紀が続きを言う前にツバサがいう。美紀は呼吸を調え「そうよ。」と手を腰に当てた。
「君たちが彼に何をしようが、ソラは喋らない。ならここに居てもしょうがない。」
「どうして喋らないとわかるのかしら?」
「美紀ねーちゃんよりも俺の方がソラの事知ってるから」
明らかに不機嫌な美紀。というか一日の九割は不機嫌だ。美紀は腕を組み、瑞希に目をやる。瑞希はそれに気が付き見つめ返した。
「瑞希はツバサが逃がすところを見てないの?」
「私はゆうりくんと雪奈とここを巡回してたけど……、ツバサとは会ってないよ」
「そう。……いなくなったなら仕方がないわ。変わりにツバサがいるし、あっちの組織は色々と身内で手一杯だろうしね」
美紀がツバサを睨むがツバサは人工的な笑みを浮かべているだけだった。 美紀は『Saint Hush』が今、いくつか問題を抱えていることを知っていた。ボスの一人であるツバサが消えた事、ソラの対処。ついでながら『黄金の血』とのこともある。
「ソラじゃなくてツバサから情報を得るわ」
「俺は軽くないよ」
「どうかしら?……というか、気になってたんだけどそれ、どうしたの?」
美紀が指差す先にあるのは杖。ツバサは不死であるし、肉体再生は尋常ではないスピードだ。それなのになぜ杖が必要なのだろう、と疑問に思った。
「『Saint Hush』をナメるなってこと。」
「身内にやられたわけ?」
「高位魔術師にね。」
ツバサが瑞希に「ねー」というと瑞希は「大変だったね」と背伸びをしてツバサの頭を撫でた。 それを見ていた美紀がため息をつきながらツバサと瑞希を通り抜けた。ソラが逃亡した事をボスへ報告し、それについて対応をするのだろう。
「美紀さんって意地悪なのか優しいのかわからないよね…」
「急にどうしたの、瑞希。」
「だって元の世界では私たちと美紀さんたちって敵同士でしょ?それなのに今は殺そうとしないし……。スキならたくさんあるのに。」
瑞希は首を傾げてから止めていた足を動かした。ツバサもそれにならい、歩き出す。
杖を強く握り締めながら。
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