私利私欲







組織の中で一番背が高いといわれているカノンがエテールを連れて廊下を歩いていた。目的地はカノンの寝室だ。
エテールは寝室と廊下の境目である扉まで送っていくことが習慣だ。そして現在、そのエテールの表情は驚愕の色に染まっていた。



「ツバサが…」



つい先ほど───数秒前のこと───カノンがエテールにツバサが辞めたことを話したばかりだ。
エテールの前を歩くカノンはのんきに欠伸をしていた。

この組織内でツバサに次ぎ、二番目に長生きをしていたカノンにとって辞めたことに関してそれほど驚愕することでもなかったのだろう。
実際、ツバサとの年齢差は天と地の如くかけ離れていたのだが。ツバサがいない現在は組織内で一番歳上、ということになる。



「そんな、唐突な…」

「奴の生き方に我は口だしせん。奴の好きなようにやらせておけばいい。」

「裏切りだったりする可能性は」

「ないとは言い切れない。が、例え不死が裏切ったとしても我らは口答えも何も出来んがな。」



一年前にツバサ、リャク、ウノを裏切っていたカノンは今回の件に口は出さないつもりだ。
ツバサの私欲で組織を離れたのならば尚更。



「でも、これからどうするんですか?リャク様とウノ様に動きは」

「まだ分からん。しばらくは集会続きだろう。補佐も参加するかもしれん。」

「わかりました。」



エテールは未だ目に驚愕を混ぜながら言った。


一年前、カノンたちは私欲のために組織を裏切った経験がある。
ウノが全力でカノンを裏切りから引き戻したのは記憶に新しかった。他のボスに比べて信用が薄いカノンはあまり意見が言えた立場ではない。立場ではないが意見を言っているのはカノンの性格故だろう。

一年前の裏切りに異論を唱えることのなかったエテールも私欲のためだった。カノンを利用したわけではなく、ただ純粋にカノンについていけば自分の欲しい力が手に入ると信じていたからだ。
それは信用、信頼だ。

他のメンバーも異論を唱えずカノンとエテールについていった。

信用が薄い一方でカノンは身内からの信用があつかった。



「エテールよ、闇属性は不死のかわりになるほどの力量はあるか?」

「ツバサに劣る部分の方が大きいと思います。しかし情報のボスとしては十分ではないかと。」

「ふん、やはり不死には敵わんか。だがそれも面白いものだ。」



眠気を忘れ、カノンが少しだけ唇の端を動かした。