闇はいつもすぐ後ろに






「はぁ…」

「あれ?どうしたんですか?」

「いや…。」



研究エリアの、自分の研究室へ歩を進めていたリャクはナナリーを連れていた。ふとしたリャクのため息がいつもの疲れたため息ではないことに気が付く。

すこし言いにくそうにしてからリャクはツバサが組織をボスを辞めた事実を話した。
話は大雑把で、核心部である"シナリオ"の事はふせておく。これは他人に話せない話題であるし、それを知っているのはリャクとリカ、サクラだけだ。



「……え…、えぇえええぇぇぇぇぇ!!そ…っ、う、嘘!?」

「嘘じゃない。」

「一年前もそうだったじゃないですか!あのときはリカとリャク様が暴力的な説得をして戻ってきたからいいですけど…っ」



深夜であることを忘れてナナリーは焦りと驚き、動揺を含めた声で騒ぐ。
リャクが注意する声もむなしく、ナナリーには届かなかった。



「ちょ、じゃあどうするんですか!色々と!」

「奴に替わり、ボスはリカ。今夜、情報のやつらはその対応に追われて一睡もできないだろう。」

「戦力やサポートの方は…」

「オレたちが補っていくしかない。リカだって無能じゃない。平気だ。」

「でも、」

「内部が混乱していたら外部組織に付け入られる。大丈夫だ。」



容姿こそはまだ子供だが、やはりリャクはナナリーよりも人生をながく生きている。落ち着いた様子でナナリーを宥めた。ナナリーはリャクの進行方向を邪魔して正面に立った。リャクが顔を見上げる。



「リャク様とツバサがそっくりなの、知ってますか?」

「な、」

「リャク様は、勝手に消えたりしませんよね?一人で溜め込んでいませんよね?」

「そ、れは…」



リャクが戸惑いを表情に表してから目を伏せ、顔をそらした。ナナリーは図星であったことに悲しくなった。

ツバサだけじゃない。リャクも、ウノも、カノンも闇を抱えている。幸福者が組織を纏められることは少ない。辛いことを知っているからこそ、纏められる。
言わないだけで。伝える術を知らないだけで。一人で抱え込んでしまう。ましてやリャク、カノンのようにプライドが高い者は尚更伝えられない。



「リャク様が平気ならいいです。けど、どうしても吐き出したいときは私に……、いえ」



意志を込めた強い眼がリャクを映し出す。リャクはゆっくりとナナリーに視線を戻した。



「私じゃなくてもいいです。リャク様が本当に信頼している誰かに吐き出してください!」

「ナナリー」

「図々しくてすみません。それだけです。」



ナナリーはリャクの一歩後ろに戻って再び歩き出す。

素直に「ありがとう」と言えないリャクは、せめてもと心の中で感謝の言葉を述べた。