狂い酔う







ソラを見送ったツバサはその場で崩れ落ちた。杖が音をたてて指から、手から、こぼれ落ちる。



「シ…ナリオ、か」



苦しそうに振り絞った声はとても小さい。壁にもたれるようにして背を預けて座るツバサの頬に汗がつたう。
その端整な顔はいまや苦しみに歪もうとしていた。


"シナリオ"というツバサの頭に埋め込まれた文字が暴れる。"シナリオ"に逆らい、刻まれていないことを行っている。「悪い事」には罰がくだる。こうやって不死という存在に制限をつけることで罰を降しているのだ。

ツバサに"シナリオ"を埋め込んだ奴らは自らを「神」と呼んでいた。神が創った規則を破る存在、理に逆らう存在、象徴である不死は排除すべき対象。

ツバサがまだ幼い頃に行われた不死狩りが代表的。

世界的に突如、一斉に行われ、片っ端から不死を回収、収容した時期があった。徹底的に不死は連行されていった。最後まで抵抗していたツバサもそうだ。

細かいことは暗闇、謎だらけだが、複数いた不死は喰われ、生き残ったのはツバサだけだった。その時に"天罰"として"シナリオ"を埋め込まれ、ツバサは自由を、自分を喪う。

自分を喪うことを恐れてツバサはニセモノを造って"シナリオ"に対抗した。そのニセモノとは――――――――――――――――――――――――――――――――――――─------------- ---- ------ - - --- -- --- - --- - - - - -



「ゲホッゲホッ」



吐血した。ツバサは口から大量に吐き出された血を、つまらないモノを眺めるような冷たい眼で見下ろした。

血で濡れ、薄く光る左の掌を、見て、ツバサは、目を閉じた。
そこにはあるはずのない、「眼」が開きギョロギョロと辺りを見ていたのだ。
それは気持ち悪く、吐き気がする光景。ツバサの服の袖が手の甲まである理由がこれだ。たまに開くこの「眼」を誰かに見られたくない。気味が悪い、醜い。「神」に"シナリオ"と共に埋め込まれた。目的はわからない。なぜ埋め込まれたのかもわからない。謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎謎謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎謎、謎謎謎謎謎謎謎、謎謎謎謎謎謎謎謎謎謎謎謎謎謎謎謎謎謎謎謎謎謎。
全部、全て、総て、なにもかも、わからない。



「あははハは」



快楽殺人者。
過去に呼ばれたうちのひとつ。
狂った思考がよみがえる。"シナリオ"が関与しない、ツバサが、不死が、本来の姿を僅かにミセタ。
動ク動ク。ヨミガエル。