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深夜、26時。誰も居ない広い書斎にリカがポツンと立っていた。

この書斎はツバサのもので、この時間は風呂からあがったツバサがタオルを振り回しながら本を読んでいた。リカもこの時間帯に書斎に立ち寄って、本を何冊か借りていた。

高い天井に届くくらい大きな棚にびっしり詰められた本。それに目を向ける。リカが両手に抱えているのは三冊の厚い本。
今夜はこれらを返却しにきたのだ。

まったく生活感のない、飾っただけの部屋。酷く居心地が悪い。一人だと、余計に。



(いつも勝手すぎるんだ、奴は…)



ため息をついて、リカはテーブルに本を置いた。



思えばツバサとは出会ってから苦労させられていた。ツバサと出会ったのは偶然。

リカが毎回の様に、絡んできた男を倒した時だ。ツバサが現れたのは。まるで昔から友達だった、といわんばかりに馴れ馴れしい話し掛け方だった。



「君強いねー。外見の歳の割りにそのくらいなら将来が頼もしい。名前は?」



リカは「見ず知らずの人間に教えてやれるほど私の名は安くない」と即答した。ツバサは立ち去ろうとしたリカを「一緒に組織始めない?」と言って引き留めた。

リカは完全にツバサを敵視していたが、ツバサはそんなことなかった。


そこから始まり、そして現在に至る。

リカはツバサを信頼している。
たとえ"シナリオ"のマリオネットだろうと、ツバサもリカを信頼していた。



ツバサは一年前にも組織を辞めている。それは"シナリオ"に従った結果だ。そのあとリャクが実力行使で、リカは説得してまたボスへと引き戻した。

その時も、今回もツバサはリカに辞めると言うときはとても軽かった。
今回はパソコンに「組織辞める。リカがボスやって。あとよろしく。」と表示してあるだけだったのだ。

本来ならば、かなり重要なことなのに。

それも一方的。



「少しは…相談、しろ…。」



ツバサが仕事用として使用している机を撫でた。この虚無感を味わっているのはリカだけではない。
もうひとりの補佐、現在はリカの補佐をしているサクラも。他の部下も。


ツバサはここではなく『黄金の血』を選んだ。そのことが悔しくて。

リカはその唇を噛む。
言葉にできない感情を、ひたすら殺す。


リャクはツバサはもう戻らない、といったが、リカは少しでも戻ってくる可能性を信じたかった。

戻ってくるよりも早くツバサが消滅する可能性のほうが十分高い。それでも、リカは信頼している彼を待つ。