公衆電話






髪をほどいてから外に出て公衆電話に向かった。
風にのって揺れる髪が正直うざい。いまさら気にしてもしょうがないのだけれど。

ボックスに入った。その電話はオレがいた世界と同じようなものだった。黒電話みたいに回すやつだったら、死んだな…。
回すの楽しいけど、あれは苦手だ。


受話器を手に取って耳に当てる。
ボタンを押さず、そのまま10分。よくわからないけどツバサにこうしろと言われた。



『もしもし、ソラか?』

「え…っと、リカ?」



受話器から応答があったのはリカの声。
息がきれていてずいぶん疲れているようだった。

てゆかなんでリカが?



『いまからそちらにミントを送る。事情はそれからだ。』

「……わかった。」



ブツ、と回線がきれる音がした。
てゆか公衆電話……、どういう造りになっているんだ?つかなんでオレだってわかったんだろ。

首を傾げながらボックスから出て辺りを見た。

人は少ない。というか全然いない。不良が5人くらい集団で座っているが、それだけだった。



(あー、そういえばルイトたちから逃げてトンネルに入った時は不良に絡まれたな)



まだ一ヶ月も経っていない出来事なのにそれがひどく懐かしい。

居なくなった姉も、どうしているんだろうか。もしかしたら何か知っていたんではないのだろうか。

そうやって考えていたら肩を叩かれた。
ミントかと思って振り返ったが、違うようだ。



「……誰」

「あれ、人違い?」



そこにいたのはオレと同じ黒髪の人物。顔だけなら美人の女性なのだが、声は明らかに男。
女顔の青年だ。

女顔は人間違いだった様で、すこし顔を赤らめて恥ずかしそうにした。オレはそれを黙ったまま見ていて、女顔はさらに居づらくなる。



「うーん、間違いだったか…。ならいいか。引き止めて悪かった」

「……いえ」



軽く頭を下げてから女顔は立ち去った。


なんか、あの女顔、知ってる気がする…。多分、過去に会ったことがあるのかもしれない。
男装をしているオレに。

男装をしていないオレを男装しているオレと間違えたんだろう。
間違えて当然だ。同じ人間なのだから。
だが性別の壁は大きいようだ。まったくバレていない。



―――あなたは偽ってばかりね。



そんな声が耳の奥からした気がした。
まだ幼さがわずかに残る声。
オレよりもトーンが高い声。

思い出そうと試みたが、ない記憶を思い出そうとするのは不可能に近かった。