ゆっくり逃走中






祖父母、親戚や近所の人はオレを「変」といった。「なぜあの子だけ違うのか」と。

気味が悪いといった。

オレは以前のように笑顔を向けて欲しくて、自分から近付いた。
見せられた表情は作られたもの。

オレを本当に愛してくれたのは両親と姉、幼馴染みの四人。

それでもオレは嬉しくて満足していた。

それを一瞬で破壊したのが両親の事故死。
旅行先のバスが崖から海へ転落。乗客全員死亡。

運転手以外は死体で発見された。運転手は未だ行方不明。

両親の死にはみんな悲しんだ。島の人たち、全員が悲しんだ。オレ以外の。

そこで狂ったのかもしれない。

たくさんの葛藤が自分の中で起きて、そして純粋にみんなと同じでありたくて……あの事件を起こした。
島の人々は火災による死因が多かったけれど、その火災を起こしたのはオレ。

オレがみんなを殺したも同じこと。



「あ、二つ目。」



二つ目のはしごを確認してさらに進む。



(正直、驚いた。)



こんな記憶を甦らせてオレはそれをあっさり受け止めている。
もっと錯乱したりするかと、今になって思う。根からの罪人ってことか?

まだ記憶が完全に戻ったわけじゃないから、なんともいえないんだけれど。



「いつか、全部戻ったら、オレはどうなるんだろう。」



性格や世界観が変わるのだろうか。「生きたい」という意思が強くなるのか。

答えは、いつか……



「もう三つ目か。これを昇って…」



見付けた三つ目のはしごに手をかけて昇る。マンホールから外へ出た。

そこはどこかの路地裏。
適当に服をはたいて汚れを落とし、ツバサに言われた事を思い出す。



「外へ出たら左に歩いて公衆電話を探せ…。」



公衆電話がありそうな雰囲気じゃないけど。
深呼吸をした。ツバサを信じて左に向いて歩き、公衆電話を探す。

時々野良猫が「にゃーにゃー」と鳴いているのが耳に入ってきた。まるでオレを急かしている様だ。



「あ、あった。」



雲行きがあやしいなと思っていたら見付けた。公園の隅に寂しく公衆電話が設置されていた。
オレは安堵する。
ついでに視界へ入り込んだ公衆トイレにも目を向けた。

男装、といたほうがいいよね。
ゆうきたちやカイトたちに万が一見付かったらまずいかもしれないし。

そう考えてトイレの個室に入って男装をといた。