過去の出来事






「ソラを捕まえてもメリットがない、そう思うのが明ねーちゃん側だよ。けどボス、美紀、まあついでにカイトは逆。」

「オレは記憶喪失だけど…。なんでボス側はメリットがあると思うわけ?」

「君に呪いをかけたのは"死"属性の優秀な魔術師。その属性が明らかな痕跡をのこしたものが"呪い"。末端だろうがなんだろうが、優秀な魔術師の魔力を欲する人は数知れない。」

「"呪い"は災悪でもあるけど、外部からみればその逆ってこと?」

「そ。力が欲しい魔術師や研究者は大抵狙ってくるから気を付けてー」



嬉しくないな。

気を付けてーって、軽すぎだろ。まあいいや。気を付けよう。
生きていたいから。


そう考えている間にもう出口へ到着したようだった。目の前にあるのは非常口によくあるドア。



「この先は下水道。三つ目のはしごを昇って。出る場所は路地裏になるはず。そしたら――」



ツバサから帰るためのルートを聞き、それからは「じゃあね。ご運を。」と言われてあっさり別れた。


下水道は以外と綺麗で臭くなかった。『黄金の血』が出入りに使っているんだと思う。
アジトの出入口が少しだけだと攻めこまれたときに逃げれないから、こうしていくつもつくってるんだろう。



「……1」



何分かかけて歩くとひとつめのはしごが見えた。
というか、本当に真っ暗だな、ここ。
ランプとかロウソクなんかないからただの闇だ。

オレの能力は使えないと思ってたけど、夜目はかなり利くようだ。
リカの魔術から抜け出すときもそうだったし、素早い動きも見える。

使い方によっては最強なんじゃないのかと思った。ああ、でも見えても避けれるほどの動きがオレにないとだめだ。

さらさらと、水が流れる音が頭に浸透する。

さきほど思い出したばかりのオレの過去。その前後はわからない。
ブルネー島、そこでオレが生まれ、事件を起こすまでそこで育った。

人を殺す感覚に気持ち悪いなんて思わなかった。
罪悪感もなかった。
同情もしなかった。
恐怖もなかった。
寂しくなかった。
苦しくなかった。
感情がなかった。

イカれてる。
みんなと同じでありたかった。ただ、純粋にそう思った。

そう、純粋に。

オレはレランス家という、高位魔術師を輩出することで有名な家に生まれた。
両親も、魔術師としてそれなりに有名だった。姉も。

オレが生まれて、魔術師として期待されていた。だが、いくら詠唱をしても魔術は発動しなかった。魔力が身体中を駆け巡らなかった。

そりゃあ、魔術師じゃないから。

オレは秘密にしていた。本当は魔術師じゃなく、能力者だということを。けど、バレたんだね。詳しいことはわからないけど。