雪合戦!
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「オイ佐倉少女!」
「少女ッつーなってンだろ片山さん。あといきなりドア開けンな、インターホン押せ」
「王子青年もいるかーッ」
「またお前か誠司」
「王子、お前はもうちょい他人を敬え」


バンッと、勢いよく開かれた扉はアパート二階、201号室の住人宅のものである。
呼び鈴もなしにいきなり部屋に侵入してきた同アパートの住人に、佐倉楓香は怪訝そうに、そっとため息をつく。
そしてその彼が小脇に抱えているモノを見て更に、怪訝そうに眉を寄せた。


「……で、何。どうしたの片山さんその大砲は。試し撃ちとか付き合わないからなアタシ」
「何言ってやがる佐倉少女、
季節は冬!外は雪!せっかく積もってるんだ、雪合戦しようぜィ!」
「何でアタシがそんな勝ち目のない合戦に参加しなきゃなんねーンだよ。卑怯だろその大砲」
「付き合え佐倉少女!同じ階の住人の定めだ!」
「知るかそんな定め!」
「いいからいいから!」


よくねぇよ、と言葉を発した先。
ズカズカ部屋に入ってきた片山さんに腕を掴まれて楓香の体が僅かに床から浮く。
そうはいくかと抵抗を見せる楓香は体重を下へ、腕をぶぶぶと左右に振って。
だがしかし、男女の力の差により楓香は呆気なく立たされてしまう。


「放せッての!寒ィンだよ外!」
「子供は風邪の子元気な子ォォオオオ!!」
「テメェが一番オッサンじゃねぇか!」


ずるずると玄関の方に引きずられて。
せめて上着をと楓香が懸命に腕を伸ばした先。
楓香の腕を掴む片山さんの手を制するよう、ぽんっと軽く手が乗った。



「……………王子、?」
「……誠司」
「……………何だ王子青年、言いたいことがあるなら言ってみろ」



フッと口角が緩んだ片山さんに、王子はまっすぐ視線を向ける。
グッと、乗った手に力が込められたのを感じて。
何だ、王子にもいいところがあるじゃないか。
なんて。
呆気に取られる楓香の耳に、やけに真剣味を帯びた王子の声が届く、。



「俺もその大砲を使いたい」
「ちょっと待て」


きらりんと目を光らせた王子に、楓香の空いた手から放たれたチョップが直撃。


「ッ、何をする楓香貴様!」
「違ェだろうテメェ、そこは片山さんを止めろよ馬鹿かお前」
「馬鹿とは何だ馬鹿とは。
雪合戦とやらをやるんだろう、合戦とつくからには戰なりに武器が必要に決まってるだろうが」
「そんな大層な合戦じゃねぇよ。雪合戦を知らんのか貴様は」
「知らん!とりあえず武器だ!大砲だ!」
「とりあえずじゃねぇよ、むしろ参加すんなよ!つか大砲にそんな数ねぇから!」
「そんなこともあろうかとちゃんと用意してあるぜィ!」
「オィ、何で量産してやがンだ」
「さすが天才だな誠司!」
「ハッハッハッハッ!ばっきゃろう照れるじゃねぇか!」
「照れてンじゃねぇよ!」



ゴチン。
弾みで外れた片山さんの手から解放された楓香は同時。
ちょうど近くにあった手頃なフライパンを握りしめて、目の前の阿呆共に華麗にフルスイングを決めた。