現実逃避はだめですか。
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「…………待て待て、もしかしなくてもアタシはまたアルコールのせいで幻覚を見ているのか」
「冒頭からいきなりどうしたの。
よくわかんないけど違うから楓香ちゃん現実を見て」
「ヤメロ幻聴、アタシに話しかけんな、もうアルコール摂取しないから許してくれ」
「別にお酒飲むななんて言ってないよ、ってかあたし幻聴じゃないし」
「……やっぱ昨日の酒がまずかったのか、…くそッ、王子が部屋に落ちてくる以上に謎な現象なんざ起きるわけないとか思って油断してたのがいけなかったンだな…ッ」
「違うって、違うってば楓香ちゃん」
「ヤメロ、アタシの名を呼ぶな幻聴。匿わないからな、うちは王子一人飼ってるだけで手一杯だからな」
「いや別にあたし住むところあるからね、あと幻聴じゃないから。
…そういう話はおいといてさ、普通に雑談しようよ」
「そう簡単にぽい捨てできる話題じゃねぇンだよおばかやろう」


コタツの布団を剥ぎ取ったような簡易机の前に座っている二人の少女。
いや、女性、というべきか。
片方は左側の前髪をピンで止めている、ショーパンニーソの女の子。
座る彼女の視線は低く、彼女は隣で突っ伏したままの女性の背中を撫でている。
身長はおそらく150ちょっとくらいだろうか。
対し背中を撫でられている方の女性は、
…何と言うか、一目では女性か男性か判断がつけにくい容姿をしていた。
肩口辺りで切り揃えられた髪、簡単にはいたカーゴパンツを着こなして、今まさに頭を抱えて悩んでいるところだ。
何に悩んでいるのかといえば。


「だから、管理人にお願いして部屋同士を繋げてもらっただけだから雑談が終われば元に戻るんだってば楓香ちゃん」
「アタシは信じねぇぞ麻子、廊下に続くドアを開けたら知らない部屋に繋がりましたとか、トンネルを抜けたら雪国でしたとは話の次元が違ぇンだよ」


まさにそんな場面に出くわしている二人なのだけど。
うなだれている方、佐倉楓香は物言いたげに背中を撫でている方、一ノ瀬麻子をキッとにらんだ。
それでも麻子は怯まない。
ぽんぽんぽんっと楓香の背を数回叩いて、ふんわりにっこり笑顔を浮かべる。


「じゃあ信じなくていいよ、信じなくていいからとにかく雑談しよう。
雑談が終わったら事の審議を確かめればいいじゃない」
「そんな簡単な話じゃねぇンだよ」
「だって楓香ちゃん、信じないが故に何回無駄な動きしたと思ってんの?」
「…………うるせぇよ、何度言われようがアタシはドアの開け閉めを繰り返してやる」

そう言って立ち上がった楓香は、部屋の出口を抜け、その先のもう一つの部屋へと入った。
入った部屋は楓香の部屋。
そこは現在、麻子の部屋と扉で直結してしまっていたりする。


「次こそは廊下が現れますように…ッ!」

バタンと扉を閉め、そして数秒待ってから恐る恐る開けてみる。
そこにいたのは、


「残念無念また来週ー」

満面の笑みで手を振る麻子だったり。


「何でだぁぁぁあ!」
「だからホラ、諦めなって」
「くそ…ッ!それでもアタシは諦めないかンな!」


バタンバタンバタンバタンバタンバタンバタンバタンバタン。

「ちょ、そんなにやったらドア壊れちゃうから!」
「ンなことはどうでもいい!これはアタシが廊下に出れるかがかかってンだ!死活問題なんだよ!」
「そんな大層な話じゃないよー…」


バタンバタンバタンバタンバタンバタンバタンバタンバタンバタン。


「楓香ちゃーん…」
「廊下廊下廊下廊下廊下廊下廊下…」
「怖い怖い」


暫く扉バタンバタンを続けていた楓香も、30分弱続けていれば嫌気がさしてくるというもの。
簡易机に突っ伏してぐってりだらんとうなだれる。
対する麻子は呑気におせんべいをがりがりッと。
楓香が視線を向けてみれば、麻子は小さく首を傾げる。
その手には食べかけのおせんべい。
口元にはおせんべいの欠片。


「……煎餅ついてンぞ、口」
「…………あれぁ、?」

器用に口元をぺろりと舐めて。
これはお見苦しいところをお見せした、なんて恥ずかしそうに笑う麻子。
…こんな女の子女の子した子が、何故うちの部屋に直結した謎の部屋で煎餅なぞ食っているのか。
楓香は真剣に考える。
一応記憶を探ってみても、この子の顔は知り合いのカテゴリにいない。
むしろ知らない。
対し、何故か麻子の方は楓香のことを知っていたりするのだが。


「…………、この怪奇現象の原因は何だ」
「怪奇現象だなんてそんなまさか。管理人特権だよ」
「…かん…………理由は?」
「よくぞ聞いて下さいました!
今回はね、このサイトと相互リンクしてくれた『28J』の永倉さんに捧げる主人公の雑談をしようと思って、楓香ちゃんの部屋とあたしの部屋を管理人特権で繋げて貰ってね」
「待て待て待て待て、何故お前が管理人に交渉を持ちかけてる。普通そういうのは管理人がこっちに」
「細かいこと気にしない」
「細かくねぇよ」


普段突っ込みに徹する麻子も、実は周りがぶっ飛びすぎているから突っ込んでいるだけで、本来はボケ担当なのかもしれない。
楓香はというと、一応常識人であるのでツッコミポジションは変わらないのだが。
まぁそれはおいといてだ。


「…………仕方ねぇなくそッ、雑談せにゃ帰れねぇッてンなら雑談するっきゃねーのか」
「そうそう、」
「……で、具体的には何の雑談をすりゃいいンだ?」
「わかんない」
「……………、」


楓香は女の子には比較的優しい人間であったりする。
だけど、ちょっと。
こめかみの辺りがぴくっと動いてしまったり。
そんな反応を見た麻子は、苦笑しながら口を開く。


「っていうか、雑談ってはっきりした話題なくあれやこれや話してくことだもの、テーマ決めたら雑談にならないと思うのだけど。」
「……嗚呼、……それもそォだな」


なるほど妙に納得してしまった。
ならばと思考を巡らせて、話題になりそうな話題がないものかと考える楓香。


「…………………ダメだムリ、話題になるような話がねぇッ」
「うわぁどんまい。」
「…お前な」
「まぁ、無理に話題を探さなくてもね」


にっこり、簡単に返ってくる笑みから、

雑談スタート。





「ってか、アタシばっかが話題振ろうと考えてンのがまず不平等だよな」
「えー、別にいいじゃん、あたしそういうの気にしないよ」
「アタシが気にするンだよ、そう言えばさっきからアタシばっか喋ってるじゃねぇか」
「それは楓香ちゃんが張り切ってるからでしょー?」
「アタシのどこをどう見たら張り切ってるように見えンだよ。いいから喋れ」
「……んー、でもあたしって、楓香ちゃんと違って本編でもあんまり喋ってないからさぁ」
「…へぇ、…逆にお前のが会話してそうだけど」
「うん、あたしも本当は結構話すひとだと思うんだよね」
「じゃあ何で黙りこくってンだよ?」
「管理人の力量不足ってヤツだね。」
「…直談判してこい」
「いやでも、一応頑張ってるらしいんだ。でもあたしの場合は楓香ちゃんみたく喋らせるんじゃなく、セリフ外で気持ちを書いちゃうからより無口らしいの」
「……理由があったのか」
「逆に楓香ちゃんは喋らせやすいみたいよ」
「何でだ」
「ホラそれだよ。管理人の中では楓香ちゃん、そうやって気持ちが口に出るタイプに分類されてるから」
「…………まぁ、確かにな」
「逆にあたしは絶句するパターンが多いんだよね、『どういうこと…ッ!?』とか、思ってもセリフにはならないんだって。
……それにほら、本編だとあたしまだ状況把握しきってないからさ、素を出せないんだよきっと」
「お前が言うか、…それを言うならアタシだってまだ序盤だよ。
ッていうか麻子が絶句する状況ってどんなンだよ」
「いやぁ、あたし初っぱないきなり拉致られるからさ」
「それ絶句で済むのか?」
「そういう楓香ちゃんだって部屋にいきなり王子サマが落ちてきたんでしょ?」
「…………アレは全く意味が解らなかった」
「管理人の脳内ッて下らないね」
「全くだ。
…嗚呼、そういや王子と言えばよ、」



※長いので割愛します。



「…………ッてコトがあってな」
「…うわぁ、それはきっとコタツのツン期か反抗期だね、…あれ、意味一緒?」
「…まぁどっちでもいい。取り敢えず早いとこデレてほしいな」
「なるほどねー」


話に一区切りついた辺りで麻子はふと時計を見やる。
何だかんだで盛り上がった会話で忘れていたが、時計の針が示す時刻は現在午後5時46分。
実はあれから約三時間弱経過していたりした。
さァッ、と。
途端麻子の顔から血の気が失せる。


「ン?どうした麻子」
「ヤバ、バイト遅刻決定だ…ッ!」
「あれお前、仕事は物語が狂った時だけって…」
「それ以外の時間は店番するの!」
「…あー…。」


バタバタと周りに散らばった手荷物を鞄に入れて、出かける準備万端な麻子。


「アレ、おい待てよこの部屋アタシの部屋と直結してるから外に出れねぇンじゃ?」
「楓香ちゃんの部屋からはムリだけどあたしの部屋からは出れるの!」
「どういうことだコラ」
「うーあーっ、時間ないよ楓香ちゃん!また今度会ったときに説明するから!
バイトに行かせてお願いぷりーずッ!」
「日本語を喋れ日本語を。
…ええい仕方ねぇな、次会ったらきっちり説明しろよ」
「おっけい承知したッ!」
「…ったく」


しぶしぶ、自分の部屋へと繋がるドアをくぐる楓香。
ドアを閉める直前、向こう側の麻子と目が合う。


「、またね楓香ちゃん!」
「おぅ、気を付けてバイト行けよ」


互いに手を振ってドアを閉める。
何だかんだでちょっぴり楽しかったと思えた楓香。
またね、という言葉に自然に返答できたことに自分でも若干びっくりしつつ、


自室に戻った楓香は間もなく、僅か三時間の間で見事に散らかった部屋と遭遇することになる。

部屋の中央でぐうたれていた王子が楓香のカミナリを食らうのは、
これとはまた別のお話。




title:
電子レンジ
――――――
うわぁぁぁぁあ。
予想以上に長くなってしまいました…!
『主人公同士で談義』とのことでしたが、こ、こんな感じで大丈夫でしょうか…?
宜しければお納め下さいませ。

相互リンク感謝です、これから宜しくお願いします!

To永倉さん Fromとっぺ