ミックス | ナノ


▼ Hardship

暗黙の了解
……で通じるでしょうか













「イヨさん、大変だね。ツバサが彼氏だなんて」



ツバサが自由奔放故に忙しいリカ、サクラという補佐を脳裏に浮かべながら座る。
イヨさんが談話室から出ていき、取り合えずオレの部屋へ来た。先ほど銃でツバサを撃っていたあたり、イヨさんの武器はオレと同じ拳銃。ご丁寧に二丁拳銃というところまで同じだ。

あ、テーブルの上に箱がある。開けてみればショートケーキが3つ。
なぜ3つ?
ツバサは甘いものが好きではない。食べれないわけじゃないらしいから、分かりにくい事実なのだが。
自分の分、という線はないとしよう。そもそも自分の分だったら抜くだろう。

じゃあなんで3つ?

もしかして鈴見の分、とか?
それともイヨさんがここに来ると分かっていた?

……ダメだ、頭を使うとそこが痛くなる、気がする。どちらにせよ頭を使うことは苦手だ。
はい、打ち切り。



「大変、だな。同じ意味ではないかも知れないがそれはソラも同じなんじゃないのか?」

「……ああ、そうなのかも。」



ケーキとフォークをイヨさんに渡す。するとイヨさんは少しだけ嬉しそうにした。
なんだか可愛いな、イヨさん。

それからケーキを食べ終わるまで駄弁ったあと、イヨさんが帰ることになった。仕事の帰りだったみたいだし、疲れてるだろう。

イヨさんはツバサと付き合っているようだし、この前の侵入者もイヨさんだったみたい。ツバサと付き合っているわけで、ここら辺の層には来たことがないだろう。ロビーまで付き合うことに。



「……あいつが談話室から出てこっちに向かってる…」

「え?あいつって、鈴芽?ツバサ?」

「ツバサ」

「談話室から出たってよくわかるね。」

「気配を辿ればすぐにわかる。」



なるほど、これが世界観の差ってやつか。……世界観?物語の差?よくわからないし、わかっちゃいけない気がする。

そんなことをモンモンと考えていたらいつの間にやらロビーについていた。イヨさんと軽く挨拶を交わした時だった。



「イヨちゃん、どこにいくのかな?」



という絶対零度の声がしたのは。
ゾクリと寒気がする。主に後ろから。どうやらそれはイヨさんも同じらしい。表情が固まっている。

声主であるツバサがイヨさんの正面に立った。イヨさんは我に返り、「どこでもいいだろう」と返答。言い慣れた感がしていて、いつもこんなことをしているのか、と思ったりした。



「ソラっ」

「あ、鈴芽。お帰り。」



後ろから鈴芽が登場し、オレは鈴芽のところにいく。だってツバサ、なんか冷たい。絶対零度。そばにいるだけで凍る。冷蔵庫にある生の肉みたいに。解凍まで時間がかかります、ご注意くださいってシール貼られるかも。あ、でもシール貼られるまえに鈴芽が解凍してくれるからいっか。

まあ、とにかく鈴芽の横に行き、同時にツバサとイヨさんから少しだけ距離をとった。



「俺のところに来ないで帰ろうだなんて、烏滸がましいよね?」

「何が、」

「ていうかさ、イヨちゃん、俺がいないところで何をしてるの?」

「はあ?」

「バスタオル一枚で……、」

「なんでそれを…まさか鈴芽か!?」



バッとイヨさんがこちらを向いて睨んだ。主に鈴芽を。鈴芽は居心地が悪そうにしていて、それをみているこちらは楽しい。



「俺はイヨを束縛するつもり無いんだけど、ね?」



不敵にツバサが笑う。やっぱり絶対零度のまま。
何か怒っている、嫌でもそれがヒリヒリと伝わってくる。



「イヨ、見せしめの刑があるって知ってる?」



ちら、とこちらを見たツバサは、次の瞬間イヨさんの手首を引っ張った。そしてオレたちの目の前で、キスをする。イヨさんの頭と腰にツバサの手があって、彼女を逃がさない。

見ているこちらはとても気まずい。オレはラカールとチトセで見慣れているせいか、気まずい以外はなんとも思わなかった。斜め上を見れば鈴芽の方が目線を泳がしている。



「ねえ鈴芽、あれってディー「その先は言うな。」了解。」



キスが終わり、ツバサがイヨさんの耳許で何か囁くと、真っ赤のイヨさんを連れてエレベーターに乗って行ってしまった。合掌。



「鈴芽」

「ん?」

「お互い、平和的にいこうね。」

「賛成」






━━━━………‥‥・・

オチなんてないよ!


- ナノ -