▼ Tying string
『The two people』の続き、ですが緋里さまの『其々徒然』を読んでからこちらを読むほうが内容を理解できるかもしれません。よって、推奨。……勝手に。
ツバイヨと表記しましたが、どちらかというと ツバサ + イヨ っぽいです。
携帯端末機器を耳に当てながら、書斎にいるツバサは書類を睨んでいた。
遠くの人と遠くの人を繋げる電話や電子メールは、この世界にとって必要不可欠な存在である。たった数百年でいろんな物を造り出す世界を面白い、と感じる人間は一人ではないだろう。客観的に世界を眺めるツバサもその一人だった。
「若い子を弄るのはたのしい」
『性悪め。鈴芽が怒っていたぞ』
「そう?」
ガリガリと、インクに浸されたペンがザラザラしている紙を駆け抜ける。ときどきペンが倒れてキーボードを叩く音がして、それは電話の相手であるイヨの耳にも届いていた。
「でもあんな関係、本当に珍しいと思わない?儚くてさ。老人から見れば心配なんだよ。」
話題の中心は鈴芽とソラ。鈴芽は二重人格者で、その創りだされた人格の名は鈴見。相思相愛のこの三人は、珍しい関係といっていい。
ツバサは咳き込んだ。
『風邪か?不死でも病を担うのか?』
「いや、違うよ。風邪じゃない。ちなみに、不死は病にかかりません。」
『じゃあその咳はなんだ。』
「なんなんだろうね。唾液が食道を抜けて噎せたんじゃない?」
『誤魔化すな』
「大したことじゃないから。心配してくれてありがとう。可愛いところあるよね、俺嬉しー」
『かっ、可愛……っ』
明らかに困惑した声をしたイヨの表情がすぐに浮かんでツバサは微笑んだ。
「独占欲、支配欲が勝らなければいいんだけど」
『?』
「狂気は恐ろしいって事だよ。綺麗事はいくらでも並べられる」
ガチ、とかたいエンターを押した。ペンが再び走る。カチカチと時計の秒針と駆ける音、話し声だけが其所を支配していた。
ツバサの言葉がいまいちわからなかったイヨは、時間が過ぎてから鈴芽と鈴見の事を言っているんだと解った。
『簡潔に』
「自らを把握、支配、制御していなければ未来を言い切ることはできない」
書斎の壁に設置されている古びた鏡がツバサの瞳に映し出された。あおと紫を混ぜた瞳は一度消える。
「こわいな、人間って」
人工の光が嘲り笑った。