▼ The two people
居心地が悪いと、入った人が口を揃えて言うツバサの書斎で、ソラが出した報告書を読み終わったツバサは、ふと疑問を口にした。
「ソラって鈴芽ともうひとりの鈴芽のどっちが好きなわけ?」
ぼーっとしていたソラは「は?」と顔を見上げた。驚いていた目はだんだん鋭くなり、ツバサを睨む。
「なんで鈴見のこと知ってるわけ?」
「あのねぇ、これでもここは情報を扱ってる、云わば情報屋だよ?………まあ、彼の名前までは知らなかったけど。鈴見っていうんだ」
氷が人工の光で輝くお酒を一口飲んだツバサは笑った。
してやられた、と舌打ちをしてソラはすぐに開き直った。
「二人とも好きだよ」
「二人を愛するって、馬鹿?」
「……じゃあオレは馬鹿だよ。馬鹿でいい。」
「へえ…」
唇を歪めて笑みを浮かべるツバサの目は笑っていない。ツバサは柔らかそうな椅子から立ち上がるとソラに近付き、その肩に手を置いた。片手は杖をついているため、両手は使えない。
「……、なに」
露骨に警戒をするソラをおいて、ツバサは服で僅かに隠れていたソラの首筋を見た。
そこにあるのは朱。
「愛されてるね。でもそれは難しい」
「……なにが」
「二人とも愛し、愛され、今はいいのかもしれないけど、その先を考えてみること。」
「先?」
「少しは自分で考えてみなよ」
ツバサはソラから離れて、デスクに座った。
カラン、と氷の音が部屋に響き渡る。
━━━━………‥‥・・
私はなにがしたかったんだろうか…(←