ミックス | ナノ


▼ The connected world




※勝手に繋げていた『ずるい奴』『Amrit...』『I come to love you gradually.』『Where is the truth?』の続編である今回は緋里さまと話し合ってやっと完結です。

※反省も後悔もしていないぜ



イヨが突然俺を認めてから数日

あれから仕事やら集会やらを真面目にやっていたせいでなかなか連絡ができなかった。向こうからも来ないんだけど。



「つか仕事続きとかありえない。」



呟いてからいつものように逃亡。俺は情報を専門にしているため、コンピューターばかり構っていた。そのせいか、ずうぅんと頭が重い。
気分転換のために街にでてブラブラすることに。適当に仕事しながら食べれるものと、仕事をなおも続行している補佐たちの差し入れでも買って帰ろう。

いい店はないかな、と歩き回っていたら目の前に橙色の長い髪を揺らす女性の姿が目に入った。

イヨに似てるな、なんて思ってしばらく見ていると、似てるんじゃなくてイヨ本人だった。



「…………あ、」



俺に気が付いたイヨはそんな声を漏らした。「やぁイヨ、偶然だね。」と適当に挨拶をする。



「…偶然だな。」



元気がない。
連絡がないことと関係しているのだろうか。

前回会ったとき、俺の存在を認める発言をしていたけどその発言を後悔しているのか?俺はそれでイヨが好きだと理解できたし、感謝しているんだけど。



「どうする?一緒に歩く?」



気づかうように話し掛けると「勝手にしろ」と言われた。「わかった」と短く返事をして隣を歩く。

意中の女性が隣にいるとは凄く安心する。恋愛になれてしまったせいか、隣にいるだけで赤面するほどドキドキしなくなったものの、やはり緊張する。

ふわりふわりと歩く度になびく柔らかい髪に触れた。歩くペースをあげようかな、と手を繋ぐ。

俺より小さいその手はすこし強張っていて、この方面に馴れていない事がよくわかる。

馴れていない頃、俺は意中の女性と手を繋いでどんな気持ちだったけ?
気恥ずかしいような、照れてたような。悲しいことに、あまりにも昔のことでその感情は忘れてしまった。



パシンッ



「いい加減にしろ、好きじゃないならベタベタするな」



突如手を離され、そんな言葉を投げられた。

人通りが少ない道を通っていたことが幸いして誰も見ていない。

ズキ、と胸が痛くなる。



「別にベタベタしてないじゃん」



俺の機嫌が少し悪くなって、刺がある台詞を吐いた。



「は?してるだろうが」

「何?手繋ぐ事?」

「それを含めて全てだ。
人をからかうのもいい加減にしろ」

「からかってないよ。どこをどう捉えたらそうなるわけ?」

「知らん、でも嫌だ。触られるのは苦手なんだ」



嫌?
それは触られる事そのものが嫌なのか、俺に触られる事が嫌なのか。
最近の彼女の妙に緊張し、赤面した表情からもしかして、とは思っているが、それは憶測に過ぎない。

確信がない。だからイヨに問う。



「なぜ?」

「何って触られたことがないからに決まっているからだろう?」



慣れていない?馴れていない?



「は?触られたことがないって…君何歳?」



以前にも年齢を聞いたことがあった。「約250歳」という返答に、密かに溜め息を漏らした。1年も生きていれば触れられる機会が何度も訪れるのに。



「それでよくもまぁ…。今までどう生きてきたのか知らないけど少しおかしいんじゃない?」

「…どういうことだ?」

「たった手を繋いだだけでベタベタって何?幼稚園の御遊戯でも男女混合に手を繋ぐのにさ」



皮肉を混ぜてみた。
まあ、俺は幼稚園に行ったことがない。だから御遊戯なんてしたことがない。俺がそこへ行くような歳の頃は幼稚園そのものがなかった。そんな昔。戦に明け暮れる世界だった。



「…私はそんな生き方したことないから。慣れてない」



イヨの表情が暗くなった。皮肉を真に受けたか、幼少の頃を思い出したからか。イヨの性格から考えるに、きっと後者だろう。

嫌な穴を掘ったな、と胸の中で呟く。フォローしようとしたがイヨの方から話題を変更した。



「貴様こそなぜそんな『おかしい』私に付きまとうんだ?」

「知りたいなら当ててみれば?」

「当てられるものならとっくに当ててる」



彼女は鈍感らしい。



「俺の事どう思ってる?嫌い?嫌いなら今すぐここから立ち去るといい」

「―――――――っ!」



自分で言って悲しくなるような台詞だ。
だが、俺の憶測に通りに彼女が俺を想うなら、鈍感なら、多少厳しくなっても構わないだろう。
というか俺の感情に気付け。相思相愛でなければはっきりフって欲しいものだ。



「まあ、俺も強制するつもりないし、視界から消えて欲しければ消える。けどその前に理解してほしいことがある。」

「何だ?」



ああ、本当に解ってないみたいだ。天然なのか鈍感なのか阿呆なのかわからないな…。

この際だからはっきりさせてしまおう。



「俺はイヨの事が好き、恋愛方面の意味で」



これでも解らないといったらどうしようか。襲えばさすがに解るだろう。無理矢理、付き合ってもない相手を襲うのは後ろ髪引かれる思いだが。



「!!?そ、なのか…?そうなか…」



返答は思ったより驚愕を含ませたものだった。

本当に驚いているようで、目を丸くしている。本当に恋愛に免疫が無いらしい。

今までイヨに色々と酷い事をされてきたのは確かだが、あの程度、拷問に比べればまったく痛くない。そもそも首を引きちぎられようが、目玉を吸い抜かれようがすぐに回復する異能を持ち合わせている。昔されたことに比べれば問題はない。そんなの子供の可愛い拒絶程度の認識だ。



「で?イヨは、俺の事どう思ってるの?返事が欲しいなー」



露骨にわざとらしく言う。彼女は少しの沈黙の後に顔を、全身を紅潮させながら言葉を紡いだ。



「―――――き。
私はツバサが好きだ。多分恋愛的な意味で。だ、ダメか?」

「ダメって何が?」



この際だ。少しくらい恥をかかせてやろう。



「ツバサを好きでいて、ダメか?一緒にいちゃダメか?」



わざとなのか、疑いたい。
上目遣いに紅潮した顔と潤った瞳が俺の視界一杯に入った。



「いいけど、ちゃんとした返事が欲しいな」



それに対した小さな仕返し。



「――――ツバサが大好きです。」



馴れない敬語を遣うイヨの顔はさらに熱くなっていることだろう。しばらく黙っていたイヨに「イヨ?どうしたの黙って」と聞いてみた。



「いや、何でも…な、ぃ…ふぇっ」

「?」



ぽろぽろと泣き出した。
涙をその瞳から溢して。



「ツ、ツバサのバカ…やろう」

「どうしたのって」



唐突のことで、彼女がわからず取り合えず慰めようとしたが「やっぱお前死ね!」といつもの調子で怒られた。



「は、八つ当たり?」

「う、煩い!半径100キロ近づくな!」

「へぇ、離れていいの?俺の事好きなんでしょ?」



涙を拭いたイヨに口を緩めてそう言った。初めに思ったのと違う意味でイヨは面白い。

胸の中で呟いて彼女を見ているとだんだん顔付きが変化して、腕を引っ張られた。


「…やっぱアンタはずるい。」

「!!」



引っ張られ、触れたのはイヨの唇。俺の唇と重なり、初めてにしてはキスが上手いなとどこか感心していた。

だが恥ずかしいからかすぐ唇が離れようとした。



(悪いけど俺はこのまま逃がすような男じゃない―――)



彼女の頭を片手で押さえ、逆に女性らしい細い腕を掴んだ。

一瞬離れた唇は再び触れ合う。



「ツバ、…サぁ、」



キスを深く、深くする。

喋った隙に開いた唇の間を割って舌を潜り込ませ、口内を犯す。
イヨの舌と絡めようとするがすぐに逃げられる。簡単に逃がしてたまるか、とすぐに捕まえた。

互いのどちらともいえない唾液と吐息が混ざり、重なり合う。

彼女は呼吸をするタイミングがわからないのか、苦しい、と俺の胸板を叩いて離してもらおうとしていた。だが、そこで離すほど俺は優しくない。



「………ん、ぁ…やめ…ぷはっ」



キスが原因の酸欠で死なれても困る。そっと唇を離した。つー、と銀の糸が繋がり、プツンと切れた。

酸素が足りなかったせいか腰が抜けたからか俺にしがみつき、何とか立っているイヨがいとおしい。



「はぁ、はぁ……この………っ」



今度は酸欠で涙ぐんだイヨを見下ろす。彼女は俺を睨んでいるようだが、誘っているようにしか見えない。さすがに告白したばかりで襲うのは申し訳ない。

かわりに抱き締め、俺は彼女の綺麗な髪に手をのせて撫でた。



恋愛に対する恐怖はない。


手を伸ばして掴んだのは
目を開けて見たそれは、

俺が愛する君でした。







(He might keep loving her until dying.)


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