ミックス | ナノ


▼ 逃走中パロ

 

追加されたハンターがソラ・ヒーレントだという情報はすぐに出回った。はじめにソラを見付けたのはアイで、アイが逃走者にメールで情報を流したのだ。いくらサングラスをかけて能力を抑えているといっても、やはりソラは良眼能力者。視力が良いという以外にも、視界に入ったものは端から端まできちんと認識する。アイが覗いていたのはすぐに解り、アイは呆気なくソラに捕まった。



「まだ開始してから半分も時間が経ってねえのに、3人も脱落者が出るとは……」



鈴芽は脱落者が出たという運営側のメールを閉じながらため息を吐いた。そして新しいエリアを見渡す。
そこはつい先ほどいたエリアと同じようにオフィスビルが立ち並ぶ街だ。ところどころ店があるものの、そこは大きな道路やきれいに整備された歩道のある場所。ところ狭しと並ぶ建物は窮屈そうに空を見上げていた。

内側から「見」のほうの自分が茶化してくるが、鈴芽は軽く流してエリアのなかを進んだ。
ハンターは前のエリアに留まっているわけではない。時間差はあるが、いずれルイトと蒼も移動してくるはずだ。今のうちにいい隠れ場所を見付けなければならない。



「一面オフィス街……。柱とか、花壇とか……無理をすれば隠れられそうだけど」

『あくまで能力は「抑えてる」だけだからなあ、ハンターの方は』

「俺達は「禁止」になってるけどな」

『それぐらい制限がある方が楽しいんじゃねぇ?』

「俺らは能力が使えても隠れるには役にたたないし、千里眼のアイは捕まったし……」



はあ、とため息が漏れる。
再びため息をもらそうとしたが自分はそれどころではないと思い出して仕切り直した。そして再度、エリア内を注意深く警戒しながら探索を始めた。



――――――――



バカ、と口から文句がもれる。しかし、それも仕方のないことだ。従兄弟のワールのみならず、幼馴染みのアイが捕まったのだ。しかも二人とも、身内に。
シドレは額を片手で覆って呆れた。



「……なんとまあ……」



どんより。それ以上何を言えばいいのかすらわからない。シドレ自身の感情も、呆れればいいのか、心配すればいいのか、悲しめばいいのか、どの感情を汲み取ればいいのか分からずじまい。

と、そこへメールの着信を端末機が伝えた。
まただれかが捕まったのかと思ったが、それは無いようだった。ミッション通知。シドレはメールを開いてみた。

要は、逃走開始から30分が経過したらハンターを2体追加する。それまでに異能者、能力者たちはそれぞれ異能、能力の使用権限を、それを持たないものは対抗する武器を手に入れろとのことだった。そして今回は鍵とは違い、すべてまとめて一ヶ所に置いてあるという。しかしその一ヶ所の近くにはハンターが一体、半径15メートルのところをグルグルまわっているようだ。
ハンターに見付からないように使用権限と武器を手に入れなくてはならない。また、すぐにそれらは使用できないようだ。



「重力操作が戻ってこればこっちのものですね。アイとワールがいないのは悔しいですが、仕方がありません」



シドレは意気込んで、指定されているその場に向かって進みだした。



――――――――



さくらは、たまたま、その「一ヶ所」の近くにいた。

そこは小さな公園のような広場。中心には噴水があり、その縁にずらりと並べられた紙切れ。あれが異能または能力の使用権限だろう。さくらは異能も能力も持たない。手にするべきものは武器だ。紙切れではないものを……。噴水の縁をさくらの視線がなぞる。



「……あった」



紙では無いもの。それは、水鉄砲のようなものだった。重厚感や威圧感など本来の鉄砲の持ちうる人を殺す道具らしい恐ろしい雰囲気など存在はしない。おもちゃのような気軽な遊びで使用する道具であると直感は伝えていた。近くには「暇っす……」と愚痴を溢す蒼が周回している。なんとか蒼を突破し、武器を手に入れなくてはならない。
純粋な脚力ではまず不可能。
隠れながら行くのが無難だ。幸い、遮蔽物ならいくらでもある。不自然に停車された車や、15メートル内に食い込むように立てられた公衆トイレ、なぜそこにあるのか用途のわからないテント。

幸か不幸か、どちらが働くかわからないが意を決して、さくらは重たい足を前に進めた。まずさくらの近い位置にあった遮蔽物は謎の車。窓から顔を出さないように注意する。走り出してから数メートルしか移動していないが、さくらの心臓はバクバクと音を鳴らして爆発寸前だ。すでに呼吸は荒れており、落ち着かせることは難しい。
蒼が正反対の位置にいることで、なんとかこの荒い呼吸を聞かれずに済んでいる。



(ど、どうしよう……)



車の影に隠れられたものの、この先どうすれば良いのか皆目検討がつかない。さくらは優れた第六感から感じる気配でなんとなく蒼の位置を把握しているが、それでも不安は拭えない。
まずは、早く呼吸を調えねばならない。
深呼吸を――……!



「あっ!」



蒼が声をあげた。出そうになった悲鳴を、ギリギリのところで抑え込む。口を両手でおおい、息を止めた。相変わらず心臓は喧しい。



(見つかった!? そんな、まさか、車体の下から足が見えて……!)



しかしハンターは逃走者の姿がはっきり見えないと追い掛けてこない。いや、足も姿だ。そんな思考がさくらの脳内を激しく駆け巡った。
ここまで来たのに捕まってしまうなんて。これでは相方に顔向けができない。



「紅! 待ってたっすよ!」

「げ……」



その声は、別の人物へ向けられた。
蒼はさくらのいる場所とは反対側へ走り抜けていく。
そう、それは、まるで風のように速く、清々しく―― 。



「智雅くん、チャンス!」

「ラッキー!」



見知った声が何の躊躇いもなく、意気揚々と噴水まで行き、賞品を獲得して行った。



「……」



次に鈴芽が現れ、「誰もいないじゃん」と言いながらチケットを持っていった。次にイヨが凛とした立ち居振舞いでチケットを難なく手にし、後を追うようにシドレもチケットを回収。そして紅確保のメールが届いてさくらは我に帰り、罪悪感に駆られつつ、スライディング土下座をする勢いで武器を手に掴んだ。

  

- ナノ -