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▼ 逃走中パロ



【注意】
これは某テレビ番組企画のパロディになります。制作者とはなんの関係もありません。通常通り自己満足となりますので、苦手の方はブラウザバックを推奨します。
また、今回の小説は緋里様と相談していつも通りのリレーにするのではなく、共通の設定を用いて各々が中編小説を書くという仕様になっております。

【逃走者】
シドレ、アイ、ワール、葵、智雅、イヨ、鈴芽、紅、さくら、弥生





「な、なんで……っ」



さくらは目の水分が高くなるのを意識しながら全身全霊で走っていた。両手を、両足を大きく振り、空気を切り、地面を蹴り飛ばす。
ああ、不幸だ。
しかしそれを口にして嘆く余裕など存在しない。相手はもう真後ろに迫っている。追われているという状況ではさくらに余裕など一切なかったのだった。
すぐ後ろには黒髪の少年――蒼が距離を縮めていた。見つかったときは何十メートルも遠かったのに。「はい、スタート」の合図でさくらはまっさきに遠くを目指して駆けていたというのに。



(終わった……。賞金はやっぱり夢のまた夢だった)



絶望。しかしその瞬間、どこからか同じ逃走者の声がエリアに響き渡った。同じといっても、逃走者たちは仲間ではない。しかし、いまの声でさくらを追っていたハンターである蒼の意識はそれた。目線を外した。そうおもったスキに、さくらの腕は横の建物から伸びてきた手に引っ張られた。再び蒼が目線を戻したとき、そこにいたはずのさくらはいなくなっていたのだった。能力制限のために装着したサングラスの奥で目を動かし、探してみたがさくらはいない。蒼はすぐに諦めてその場から離れていった。



「よし、もう行ったね」

「あ、葵ちゃん!?」

「しっ。たまたま追われてるのを見付けてさ……。智雅くんに無理を言ったの。脱落する前にちゃんと助けられて良かった」

「おー、作戦成功したの?」

「智雅くん!」



さくらは喜び、また驚いた表情をした。コロコロと表情が変わる様に葵と智雅はくすりと笑う。しかし長いことここに三人もいることはできない。さくらたちは互いの健闘を祈りながら二手に別れていった。


――――――――


シドレはいつも一緒にいるアイとワールの二人とはバラバラに行動していた。シドレが逃げる理由は賞金のためもあるが、それ以外にも彼女自身に問題があった。
男性恐怖症だ。シドレは男を酷く苦手としているのだ。賞金目当てでこの高度な鬼ごっこに参加したはいいものの、現在ハンターは男しかいない。シドレは絶望した。シドレは今、ハンターから賞金と男性恐怖症の二つの意味で逃げていた。この高度な鬼ごっこに異能の使用は禁止されている。異能さえ使えれば重力操作で逃げ切ることは容易いものの……。



「異能さえ使えれば……。!」



ハンターから見付からないような隠れ場所を探していたシドレはちょうどいい茂みを見つけた。さっそくその茂みに身を隠そうと近付き、シドレは硬直した。先客がいたのだ。しかも男性。
ただの先客などではない。シドレにとって、それはこの世で一番恐ろしいものだった。



「お?」



シドレに気が付いて彼は振り帰る。
緑の髪とつなぎの作業着が特徴的な鈴芽だった。シドレは硬直。冷静だった鈴芽はシドレに目立ってしまうため「頭さげろって、頭!」と注意する。シドレは一定の距離を保ちながらしゃがむ。



「街が舞台だからこんな絶好の隠れ場所はないって思ったんだけど、隠れてやり過ごそうって人は他にもいたかー」

「……え、ええ。そうですね」

「えっとー、シドレだっけ? ここを出ていけ、なんて俺いわないから」

「いえ! 私、別の場所をあたりますので!」

「しっ! 出歩いたらハンターに見つかるリスクがあるだろ? 無理しなくても」



鈴芽の優しさが染みて痛い。シドレは両手をブンブンと振ったが、鈴芽の優しさは逆にシドレに断らさせにくい状況を作っていた。



「あっ、いい隠れ場所! ……あれ?」



そんな中もう一人、同じ考えをもってここにやって来た人物がいた。弥生だ。弥生はカメラの入った鞄を大切に抱えながら先客たちを丸い目でパチパチと見る。茂みの奥で男女三人が無言で見つめ合い、硬直。やがて三人仲良く茂みの中に隠れる結論に至った。


――――――――


イヨはその高い身体能力で既に一度、ハンターから逃れることに成功していた。しかし無闇に出歩くのは良くないと考えたイヨは一時的に身を隠せるような場所を探す。舞台が街中であるため、隠れられる場所はなかなかない。路地裏や、エリアの奥には川が見受けられるが、どちらも行き止まりがあり、ハンターに見付かれば捕まってしまうことは目に見えていた。
ため息をつきながらフラフラと歩いていると、見知った姿が二つ視界にはいる。ベンチに堂々と座っている紅とアイだ。イヨは呆れた表情をしながら近寄り「なにをやっているんだ……」と問うてみる。



「ああ、イヨ。ひさしぶり。どう、順調?」

「よう」

「聞いているのは私だぞ。紅たちはこんなところでなにをやっているんだ……。ハンターに見付かるぞ」



イヨの言うことは正しい。紅とアイはそれを聞いてやっと重たそうな腰を浮かせた。



「無駄に出歩いて体力を使うより温存したほうがいいと思ったんだけど」

「紅らしくないな。ベンチで体力の温存をするとは…。アイもそう思わないか。……思わないだろうな……ここにいたんだから……」

「隠れたって、あのルイトと蒼を相手にするんだぞ。無駄としか思えない」

「どうしてそんなにネガティブなんだ。蒼にはアイのサングラスを、ルイトには普段より強力に抑制するヘッドフォンがあるだろう」

「だからって……」

「……なあ」

「ああ、もう、女々しい! もっと前衛的に行動しろ! 賞金のために参加したんだろう!?」



賞金……。
その言葉を聞いて二人は目を覚ました。イヨにとってそれは嬉しくもあり、虚しくもあったがそんなことなど紅とアイは知らない。



「そっか、そうだよね……!」

「仕方がない。非戦闘員だが、たまには本気を出すか」

「あ、ああ。そうしたほうがいい」



イヨは彼らの守銭奴な一面を見て、虚しくなった。いや、この高度な鬼ごっこというゲームに参加している時点で逃走者は少なからず守銭奴らしい一面があるのだ。だからイヨは文句を言えない。それが一層、イヨを虚しくさせていたのだった。


――――――――


ミイラ取りがミイラになる。
それと似たようなことをワイルトことワールは行っていた。逃走者は逃げていることにばかり徹している。そしてハンターは追うことばかり……。ハンターは微塵も自分達の後を追う逃走者がいるなど、思いもしないだろう。逆の発想だ。ワールは、現在ルイトの後ろについていた。



「最初のミッションまで時間はあと少し。まずは、それまで奴らに見つからなければ……」



エリアは決して広くはない。が、しかし、狭いというわけでもない。ルイトと蒼が遭遇する可能性は低く、ワールも一息つく間くらいはできている。
と、そのとき、持っている携帯端末が音を鳴らした。ワールは瞬時に画面に触れて音を急いで消す。ルイトの足がピタリと止まって、正確にこちらへ向かってくる。すぐに近くにあった大きな立て看板の後ろに身を隠す。運良くやり過ごすと、ワールは携帯端末を確認した。どうやら最初のミッションのようだ。



「ワイルト・セデレカス、捕まえた」



ああ、神様。調子にのっていて申し訳ございません。
ルイトをやり過ごしてなどいなかった。後ろから静かに近寄る気配を察することのできないまま、ワールの肩にはルイトの両手がしっかりと触れている。まだこの鬼ごっこは始まったばかりだというのに。

そうして、初めの10分間でさっそく一人目の脱落者が発生した。

   

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