ミックス | ナノ


▼ Relation


ツバサはそうか、とソファに身を預ける。本人も分からないことを追及するつもりはない。ただ、埋没した歴史があることはよく分かった。短命な異能者たちと違い、能力者は長生きをする。それでも分からないということは、埋没したのは今に始まったことではないだろうということ。異能者側はすでに異能を持たない人間と共存共栄を果たしている。いまだに苛烈な歴史を歩む能力者を他人事のように無下に思えないものの、やはり、どうしようもない他人事で、こちらが口を出せる状況ではない。
ツバサの質問したかったことの大まかな部分は歴史関係にあった。ツバサははあ、と諦めたような息を吐き、サクラが用意していた紅茶のカップに口をつける。



「?」



ツバサが黙ったまま日暗を眺めていると彼は首を傾げる。日暗と能力者、そしてその歴史について脳内で試行錯誤を繰り返し、やがて眉間を指で抑えた。
見るからにツバサは何か考え、悩んでいる。次の質問を待つ日暗は、あらかじめ質問用意していたのだとばかり思っていたため、少し驚かされた。実際、用意していたものの見事に初めの質問で打ち砕かれてしまっている。



「用意していた質問が歴史に関することだったから、ちょっと痛いな」

「ああ。だから悩んでるのか!」



日暗は今までの沈黙に合点したようだ。それらを吹き飛ばしそうなほど明るい笑顔を浮かべ「なーんだ」とでも言いそうな顔をする。



「せっかくのチャンスだったんだけど……。今回はパスかな。次回に持ち越してもいい?」

「ええ、それありかよ! まあ、確かに今回はお世話になったし、その分を今の質問で返しきれたとは思えねえ……。しょうがないか」

「どうもありがとう」



仕方なしと譲歩。
日暗は一本とられたと、カラカラ笑っていた。



「じゃ、今回はありがとな!」



日暗の切り出しにツバサは「こちらこそ」と答える。
ツバサと日暗は互いに挨拶を交わしたあと、彼らはロビーで日暗を見送った。
日暗と別れてすぐ、ツバサは左右にいる補佐に「あっちの能力者って本当に面白いね」と話しかける。



「そうだな……。私たち異能者とはまったく別だ。同じ世界なのにまるで異世界のようだ。今まで交流がなかったのは少々もったいないな」

「まあ、確かに興味はあるが……」



サクラは素直ではない。ツバサとリカはクスリと笑う。
その意味を知って、サクラは取り繕うように「これからゆっくり交わっていけばいい」とふて腐れた。



「うまくいけば、ね。あちらの事情はややこしそうだよ。革命組織とか」



ツバサは日暗が消えた街を見据えたまま、いつも通りの表情をする。

   

- ナノ -