▼ Relation
シングとミルミがエテールに仕事が終わったと報告しに行き、報告書をエテールから受け取った。日暗のいるロビーまで戻る途中、呼び掛けられて二人の足がとまった。
「あ、ちょっとちょっと、シングとミルミ」
振り返るとそこにはツバサがいた。ツバサの後ろには補佐のリカとサクラがそれぞれ無表情のまま立っていた。いつでも笑顔でいるツバサとは対極している。
シングはちらりと無表情のミルミをみて、ツバサに用件を聞いた。
「おはよ。仕事ご苦労様。いまから日暗さんのとこ?」
「おはよう。そうだが……、どうかしたのか?」
「ちょっとねー。俺も一緒でいい?」
「構わない」
シングは頷いて、それからミルミに確認をとった。ミルミは「大丈夫ですよ」と答える。その返事にツバサは満足そうな笑顔を浮かべた。
「ツバサ一人で行くのは許さんぞ」
「俺もツバサ一人は反対。仕事サボるし。絶対」
嫌な上司だ、と補佐の二人はため息を吐いた。だいぶ疲労がたまっているようだった。
「そんなこと言わないでよ、二人とも。やるって。明日」
「なにが明日だ、馬鹿者。私がついていく。サクラは先に応接室で準備を頼む」
「リカがついていくなら安心できる。じゃあ、クソ上司は任せた」
サクラは踵をかえして来た道を戻っていった。サクラの背中にツバサとリカが手を振った。そのあと、四人でロビーに向かう。ツバサが先頭を歩き、次にリカ、シングとミルミに続くので端からみればツバサが三人を引き連れているようにもみえた。
ロビーにつくと、丁度ウノとナイトの二人組とすれ違った。ツバサやリカは二人がなにをしていたのか知っているようで、二人になにをしたのか深くは聞かなかった。シングとミルミはなぜボスとボス補佐がロビーへ? と揃って首を傾げている。
ロビーのソファーには日暗が座って行き交う人を眺めていた。最初にツバサが話し掛け、日暗は気が付く。
「おはよう。お疲れ様」
「あ。おはよう」
日暗は人懐こい笑顔で四人を迎えた。ツバサは先にシングたちの用件を済ませるように促しながら向かいの、つい先ほどウノとナイトが座っていたソファーに座る。ボスの隣に座るなどということはできないシングとミルミは脇のソファーに座った。
「日暗さん、今回は本当に助かった。ありがとう」
「いやいや、こっちもいい経験だったし。お礼言うのはこっちだ。ありがとうな」
「これからどうするんだ?」
「まあ、こっちでの用事を終わらせてから帰ろうかと」
「そうか。ではまたこちらに来るときがあれば、そのときに。今日は挨拶をしにきただけなんだ。またいつか」
「お世話になりました。また会いましょう。さようなら」
シングが立と、ミルミも立った。無表情のまま、ミルミが手を振り、シングたちは別れた。
残ったツバサは「さて」と、遠ざかるシングとミルミを見届けながら話題を誘った。
「質問したいから応接室に来てもらってもいいかな」
にこり、と笑うツバサに何を質問されるのかわからない日暗は気が重くなった。あくまで相手は諜報部。日暗にだって教えられないものの一つや二つはある。核心をつくような質問はしないでくれ、と思う。
同時にツバサは得たい情報を本当に得られる確信はなかった。質問をしても跳ね返されたり、何気なくそらされてしまうこともある。日暗という人物がただの能力者だとはとうてい思ってもいない。
ツバサが、最初に日暗を連れてきた応接室に彼を案内する。応接室の外にはサクラが待機していて、日暗に頭を下げた。ツバサと確認をとって部屋のドアを開ける。部屋に入ったのはツバサとリカと日暗。
「そっち側の歴史とか、能力者の構造や歴史……、まあ、主に歴史に関して重点的に聞きたい。答えられないものは答えなくていいよ。ただ、嘘だけは止めてね」
やはり、口調だけは優しいツバサは作り物のような笑顔をした。